<TOP画像:マッキントッシュの壁画>
チャールズ・レニー・マッキントッシュは、19世紀末から20世紀初頭にスコットランドのグラスゴーで活躍した有名なアールヌーヴォー建築家・デザイナーです。
世界的に知られているマッキントッシュのデザインは、背もたれが高く、ハシゴのようになっている椅子「ラダーバックチェア」そして「マッキントッシュローズ」と呼ばれるバラのモチーフです。
マッキントッシュという名前を知らなくても、彼の作品はどこかで見たことがあるのではないでしょうか?
マッキントッシュの建築した建物は、グラスゴーとその近郊に現在も12軒以上残り、また彼がデザインしたオリジナルの家具や装飾品も数多く残されています。
今回は、グラスゴーの産んだ偉大な建築家・デザイナーのマッキントッシュの作品を訪ねてグラスゴーを巡ってみました。
100年以上前のデザインですが、改めて見てみても斬新なデザインで、マッキントッシュの虜になってしまいました。
チャールズ・レニー・マッキントッシュって誰?
<マッキントッシュの銅像>
マッキントッシュのデザインを見て回る前に、まずマッキントッシュをご紹介します。
チャールズ・マッキントッシュ(1868-1928) は、アーツアンドクラフツ(美術工芸)運動のグラスゴー派の中心人物です。 アーツアンドクラフツ運動は、イギリスのウィリアム・モリス(1834-1896) によって提唱された産業革命が産んだ工業化への反発から生まれた工芸デザイン運動で、用の美(日用品の中に美)を追求したものです。
アーツアンドクラフツ運動は、アールヌーヴォーの理論的先駆けでもあります。この中で台頭したのが、花柄で有名なリバティーです。
<薔薇のモチーフ>
グラスゴー派は、スコットランドの伝統であるケルト美術の造形美も取り入れた人間と植物のモチーフを多用し、幻想的な曲線による装飾様式に、垂直的な幾何学を使った先駆的なデザインです。特にヨーロッパのモダンデザインに影響を与えたと評価されています。
マッキントッシュのデザインは、英国内では当初「奇妙な装飾の病」と批判されていましたが、オーストリアの画家グスタフ・クリムト率いるアールヌーヴォーの先駆けのウィーン分離派に影響を与えました。
1900年にウィーンで開かれたエキシビションでマッキントッシュのデザインは大評判となり、マッキントッシュはヨーロッパで有名になりました。「ヨーロッパにおいてもっとも著名な建築家」と評されるほどでした。
マッキントッシュはグラスゴーを中心に活動し、1900年代に活躍しました。しかし、第一次世界大戦を境に、アールヌーヴォーの人気が下がり、アールデコへ時代が移るとともに仕事が減り、グラスゴーを離れ、イングランドのサフォークに移り、その後南フランスに移り住んで水彩画を描いていました。そして1928年にロンドンで亡くなりました。
再評価でグラスゴーの誇りとして蘇る
産業革命に伴い、貿易の街として繁栄したグラスゴーの街は、第二次世界大戦以降は衰退し、一時は「ヨーロッパ最悪のスラム街」と呼ばれるほど荒廃してしまいました。
一方で、忘れられた存在となっていたマッキントッシュは、1970年代に始まったアールヌヴォーの再評価によって再認識され、マッキントッシュの家具も再生産されるようになり、再びその名が知られるようになります。
1980年代以降、グラスゴーでは工場跡地などの荒れた土地を活用し、主力産業を「観光」に切り替えようという取り組みが行われ、その流れでマッキントッシュの建築や作品が大切な遺産として見直されました。
現在では、グラスゴーの誇りとして蘇ったマッキントッシュの建築物や装飾、そして作品を所蔵している場所は、グラスゴー観光の中心となっています。
マッキントッシュの作品紹介
マッキントッシュの代表的なグラスゴーの建築物や作品を所蔵している場所を紹介します。
1. マッキントッシュ・アト・ザ・ウィロー (Mackintosh at the Willow)
<マッキントッシュ・アト・ザ・ウィローの店構え>
マッキントッシュが1903年に彼のパトロンでもあったケイト・クランストンのためにデザインしたティールームです。
19世紀末と20世紀初めにアフタヌーンティーの習慣が広まるとともにオープンした、多くのグラスゴーのティールームの中で最も有名なものでした。
元々は、「ウィロー・ティールームズ」と呼ばれていました。「ウィロー」という名前は、ティールームのある通りソーキーホールから来ています。「サウ」はゲール語で「柳の木」を意味します。
マッキントッシュは、外装と内装ザインしただけでなく、妻マーガレットとの共同制作で、家具、照明、ナイフ・スプーン類、またメニュー、ウェイトレスの制服もデザインしました。
マッキントッシュの凄さは、建築とインテリアだけに留まらないトータルデザイナーだったということです。
2014年から2018年の4年に渡る大規模な修復により、マッキントッシュが1903年にデザインしたウィロー・ティールームズが蘇っています。
<ハイバッグチェアのある豪奢の間>
マッキントッシュの代表的な椅子「ハイバックチェア」は、高い背もたれで空間を区切ることで、テーブル周りにパーソナルで心地よい空間を創ることを意図して制作されたそうです。
サロン・ド・リュクス(豪奢の間)は、マッキントッシュがデザインした最も贅沢なインテリアの1つとされます。この部屋には、今でもオリジナルのステンドグラスのドア2枚と紫色の羽目板の下に鉛入り鏡のフリーズ、鉛入り鏡のパネルが付いた窓が残っています。
マッキントッシュの名前を有名にしたティールームズは、今訪れても美しく、マッキントッシュデザインを堪能できる場所です。
マッキントッシュ・アト・ザ・ウィロー (Mackintosh at the Willow)
- 住所: 215-217 Sauchiehall Street, Glasgow G2 3EX
- 電話番号:0141 204 1903
- 営業日:無休(クリスマスと年始の休みあり)
- 営業時間:9:00〜17:00
2. ライトハウス (The Lighthouse)
<ライトハウス>
1895年にマッキントッシュがデザインした新聞社「グラスゴー・ヘラルド」の社屋です。
建物にある塔は、 火災時の消火のために8,000 ガロン (36,000ℓ)の水タンクを収容するよう設計されたものです。1999年にアート・センターへと生まれ変わり、マッキントッシュ関連の展示のほか、アート系イベントが行われていましたが、現在閉館していて外からしか見ることができません。(2024年10月現在)
【ライトハウス (The Lighthouse)】
- 住所:11 Mitchell Lane, Glasgow G1 3NU
3. デイリー・レコード・ビルディング(Daily Record Building)
<デイリー・レコード旧社屋>
1904年に完成した新聞社・デイリー・レコードの旧社屋です。上部に白と青のレンガを使った外観が特徴的です。
光を最大限に利用するために、彫刻された砂岩と白と青の釉薬をかけたレンガを組み合わせたファサードとなっています。内部は非公開となっています。
【デイリー・レコード・ビルディング (Daily Record Building)】
- 住所: 20-26 Renfield Lane, Glasgow, G2 5AT
4. グラスゴー芸術学校 (The Glasgow School of Art)
<火災に遭う前のマッキントッシュの設計した校舎>
マッキントッシュの最高傑作とされる建築物で、1897から1909年に建てられました。マッキントッシュが27歳のときに、母校でもあるグラスゴー芸術学校の新校舎の設計コンペに優勝した時に手掛けたものです。
図書室をはじめ、校舎の一部が一般公開されていましたが、2014年5月の火災で一部が焼失し、また2018年6月に再度大規模な火災が発生し、現在も修復中で残念ながら見ることはできません。
2030年に大学院として再開予定です。
【グラスゴー芸術学校 (The Glasgow School of Art) 】
- 住所:167 Renfrew Street, Glasgow G3 6RQ
5. マッキントッシュ・ハウス (The Mackintosh House)
<マッキントッシュハウスの外観>
マッキントッシュ・ハウスは、マッキントッシュと妻のマーガレットが自らデザインし、1906年から1914年まで暮らしたサウスパーク・アベニューにあったグラスゴーの自宅を再現したものです。オリジナル家具を使い、できるだけ忠実に再現されています。
元々マッキントッシュ夫妻の家のあった場所から100m位にあるグラスゴー大学のキャンパス内にあるハンテリアン・アート・ギャラリーに併設されています。
<ハイバックチェアの置かれたダイニングホール(1階)>
<白が基調のマッキントッシュの装飾が多くみられる書斎(2階)>
<ベッドルーム(3階)>
館内には、マッキントッシュがデザインしたハイバックチェア、ラダーバックチェアなどの家具、カトラリー、バラの装飾や、ステンドグラスなどが置かれています。
<78 Derngateのゲストベットルーム(4階)>
<ウィローティールームズの豪奢の間ためにデザインされたハイバックチェア>
4階は展示スペースとなっていて、ウィローティールームズのためのオリジナルのハイバックチェアや唯一マッキントッシュがスコットランド外のノースハンプトンに設計した最後の仕事(78 Derngate)のゲストベッドルームも再現されています。
マッキントッシュの遺族がグラスゴー大学に多くのものを寄付したため、まとめてマッキントッシュのデザインを見ることができるので、マッキントッシュの多才な素晴らしさを感じることができる場所です。
【マッキントッシュ・ハウス (The Mackintosh House)】
- 住所:Hunterian Art Gallery, 82 Hillhead Street, G12 8QQ
- 営業日:火曜〜日曜
- 営業時間:10:00〜17:00
6. ケルビングローヴ博物館&美術館 (Kelvingrove Art Gallery and Museum)
<マッキントッシュ作品の展示スペース>
<マッキントッシュの壁画装飾>
1901年に開館したスコットランドを代表する美術館です。マッキントッシュの家具や装飾のコレクションが展示されています。
【ケルビングローヴ博物館&美術館 (Kelvingrove Art Gallery and Museum)】
- 住所:Argyle Street, Glasgow G3 8AG
- 定休日:無休
- 開館時間:10:00〜17:00 (金曜日と日曜日は 11:00開館)
ここからは、私は訪れることができませんでしたが、次に行きたい順にご紹介します。
7. 芸術愛好家のための家 (House for an Art Lover)
<芸術愛好家のための家>
1901年、ドイツのデザイン雑誌ツァイトシュリフト・フュア・インネンデコレーションが主催した「芸術愛好家のための家」の設計コンペにマッキントッシュが応募した作品です。1989年から1996年にかけて建設されました。
グラスゴーの南にあるベラハウストン・パークの中にある建物は、アート ギャラリーと展示スペース、結婚式などのイベント会場、カフェ、多目的アーティストスタジオとなっています。
<ミュージックルーム>
いかにもマッキントッシュがデザインしたとわかるメインホール、ダイニングルーム、ミュージックルームを見学することができるので、時間があればぜひ訪れたい場所です。
プライベートなイベントで予約されていることが多いため、オープン時間を確かめて訪れてくださいとのことです。
【芸術愛好家のための家 (House for an Art Lover)】
- 住所:Bellahouston Park, 10 Dumbreck Road, Glasgow G41 5BW
- 電話番号:0141 483 1600
- 定休日:無休
- 営業時間:10:00〜17:00
8. クイーンズ・クロス・チャーチ
<教会の内部>
マッキントッシュが設計した現存する唯一の教会です。1896年に自由教会によって建設が委託され、1899年に完成しました。
マッキントッシュのデザインしたステングラスや彫刻のある説教台を見ることができます。
【クイーンズ・クロス・チャーチ (Queen's Cross Church)】
- 住所:870 Garscube Rd, Glasgow G20 7EL
- 営業日:月、水、金 (祝日、年末年始は休み)
- 営業時間:11:00〜16:00
9. マッキントッシュホールズ(The Mackintosh Halls)
<マッキントッシュホールズ>
マッキントッシュによって設計されたホールと管理人の家があります。スコットランド自由教会の伝道所として1899年に完成しました。マッキントッシュらしい薔薇や植物のモチーフのステングラスが残っています。
現在は、教会によるコミュニティーホールとして使われているため一般公開されていません。最近まで、ルチル教会ホール(Ruchill Church Hall)と呼ばれていました。
【マッキントッシュホール (The Mackintosh Halls)】
- 住所:15/17 Shakespeare Street, Glasgow G20 9PT
- 電話番号:0141 533 2731
10. グラスゴーアートクラブ(The Glasgow Art Club)
<マッキントッシュのフリーズのあるギャラリー>
1893年に開館したグラスゴーアートクラブの建物の改装・設計は、当時マッキントッシュが働いていた建築事務所「ジョン ・ハニーマン & ケッピー」によって施工されました。
2011年に行った修復で、何層もの塗料の下に隠されていたマッキントッシュがデザインしたフリーズが発見され、ジョン・ケッピーが設計を担当し、マッキントッシュは装飾的なディテールをデザインしたものと確認されてました。
現在、マッキントッシュが手掛けたフリーズ、パネル張りの壁、暖炉を展示ギャラリーで見ることができます。(一般公開中)
【グラスゴーアートクラブ (The Glasgow Art Club)】
- 住所:185 Bath Street, Glasgow G2 4HU
- 電話番号:0141 248 5210
- 営業日:火曜日〜土曜日
- 営業時間:11:00〜18:00
11. スコットランド・ストリート・スクール博物館(Scotland Street School Museum)
<スコットランド・ストリート・スクール博物館>
スコットランド・ストリート・スクールは、マッキントッシュがグラスゴー教育委員会のために設計し、1903年から建設され、1906年に開校した建物です。
元々は学校として使われていましたが、博物館となりました。この建物は現在大規模な改修工事のため閉鎖されています。(2024年10月現在)
【スコットランド・ストリート・スクール博物館 (Scotland Street School Museum)】
- 住所:225 Scotland Street, Glasgow G5 8QB
12.マーターズ・パブリック・スクール (Martyrs' Public School)
<マーターズ・パブリック・スクール>
マーターズ・パブリック・スクールは、1895年に建設が開始されたマッキントッシュの初期の作品で赤色砂岩の建物です。
マッキントッシュ自身が生まれた通りに建てられました。一般公開されていないため、外観のみ見ることができます。
【マーターズ・パブリック・スクール (Martyrs' Public School)】
- 住所:Parson Street, Glasgow G4 0PX
マッキントッシュのデザインした建物の中でも有名な建物の1つがグラスゴー郊外にあります。時間が許す時には是非訪れたい場所です。
13. ヒルハウス (The Hill House)
<ヒルハウス>
マッキントッシュの最も象徴的な住宅デザインとされるヒルハウスは、グラスゴーから電車で約1時間ほど離れたヘレンズバラの高級住宅地にあります。
ヒルハウスは、1902年にグラスゴーの有名な出版社の取締役だったウォルター・ブラッキーの依頼でマッキントッシュが設計し、1904年に完成しました。家と庭だけでなく、家具の多くとすべての室内設備と装飾デザインを依頼された大規模なものです。
<ヒルハウスのためにデザインされたヒルハウスチェア>
ヒルハウスは、スコットランド・ナショナルトラスト(歴史的建築物の保護団体)の管理下でオリジナルデザインの建物、家具、テキスタイル、庭園が忠実に復元されました。
ハイバックチェアの中でも、背もたれがとても高く梯子のようなデザインのラダーバックチェアは、この寝室に置くためにデザインされたものとされ「ヒルハウスチェア」と呼ばれています。
【ヒルハウス (The Hill House)】
- 住所:Upper Colquhoun Street, Helensburgh G84 9AJ
- 電話番号:01436 673900
- 定休日:無休(年末年始は休み)
- 営業時間:10:00〜17:00
14. マッキントッシュクラブ (Mackintosh Club)
<マッキントッシュクラブの外観>
マッキントッシュクラブは、ヒルハウスのあるヘレンスバラにあります。最近になって、マッキントッシュの設計として発見されたのものです。このクラブは、1895年12月にヘレンズバラおよびガレロック保守クラブのクラブハウスとしてオープンしました。
マッキントッシュは、1889年から「ジョン・ハニーマン & ケッピー建築事務所」に勤めていたため、この時期の多くの委託作品は表面上はジョン・ケッピーが設計したものでしたが、主要なファサードと内装の革新的なデザインから、マッキントッシュがクラブハウスの設計に関わったことがわかりました。
ヘレンズバラクラブから、マッキントッシュクラブと改名され、現在はギャラリー、展覧会、アートや音楽の場所として使われています。
【マッキントッシュクラブ (Mackintosh Club)】
- 住所:40 Sinclair Street, Helensburgh G84 8SU
- 電話番号:01436 674375
- 営業日:月曜〜金曜
- 営業時間:11:00〜16:00
最後に
マッキントッシュの作品を訪ねてグラスゴーを巡ると、グラスゴーの違う姿が見えてきます。
グラスゴーはあまり特徴のない英国の大きな都市というイメージで、見所があまりないと思い込んでいました。しかし、こうやってマッキントッシュの作品を回って、偉大なデザイナーを産んだ街という目で見るとグラスゴーへの見方が変わりました。
時代には少し早すぎて不遇な晩年となってしまったアーティスト・マッキントッシュですが、彼のデザインした家具や装飾は、今見ても本当に素晴らしいと感じます。
残念なことに、マッキントッシュの最高傑作とされるマッキントッシュの母校のグラスゴー芸術学校の建物は、2度にわたる火事で壊滅状態にまで燃えて修復中となっていますが、マッキントッシュ・アト・ザ・ウィローやマッキントッシュハウスは、大変見応えがあります。
今回行けなかった芸術愛好家のための家、クイーンズ・クロス・チャーチ、マッキントッシュホールには是非行きたいと思っていますし、またグラスゴーから電車で1時間くらいかかりますが、ヒルハウスにも行きたいと思っています。
文・写真・Sachiko/提供元・たびこふれ
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