現金保有は、投資による利益機会を放棄することであり、期待利益を逸失させることとして、機会費用を発生させる。しかし、他方で、危機における巨大な利益機会を確保することだから、理論的には、危機における期待利益が機会費用よりも大きいのならば、現金保有に合理性があるわけである。

通説では、ノーリスク、ノーリターンの現金は資産ではないので、積極的な投資対象になっていないばかりか、危機の発生が想定されていない、あるいは一時的な異常現象としてしか想定されておらず、危機における現金保有の意味について顧慮が払われていない。しかし、通説の理論的要請であるハイリスク、ハイリターンは、ノーリスク、ノーリターンの現金を原点においてこそ、意味があるのだと思われるのである。

森本 紀行 HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長 HC公式ウェブサイト:fromHC twitter:nmorimoto_HC facebook:森本 紀行