ジェームズ斉藤(以下、ジェームズ):しばらく連絡できず、すいません(苦笑)。各国の国防関係者からの問い合わせに追われていました。その他関係者とも話した中で今後のロシア情勢の見立てをお話ししましょう。まず、プリゴジンですけど、いまポジショニング的に一番いいところにいて、彼を止めることはプーチンでもできない状態です。
──ベラルーシに亡命したのに一番強いのはプリゴジンだと。
ジェームズ:そもそも彼の亡命はプーチンがお膳立てをしているんです。ベラルーシのルカシェンコ大統領に電話して、「プリゴジンを頼む」とお願いしているのはプーチンです。
──プーチンから電話したんですか?
ジェームズ:彼の頼みがあったんで、ルカシェンコが仲介に入ったんです。プリゴジンとルカシェンコは20年ぐらいの付き合いなんですけど、プリゴジンが電話したとか、そういう流れではなくて、トップ同士の取り決めで決定しました。ルカシェンコからするとこれは凄くいいオファーです。「プリゴジンのような危険人物を受け入れることはリスクじゃないか?」と思う人もいるかもしれませんが、ルカシェンコからすれば大きなメリットがあります。時期が来たらプリゴジンをロシア側に放って混乱を起こすこともできますし、自分の懐刀にもなります。
──ルカシェンコはプリゴジンという獰猛な番犬を手に入れることができたという意味ですね。
ジェームズ:そういう見方ができます。ただし、これとはまったく真逆の見方をしている人たちもいて、それについてはあとでお話しします。
まず、ルカシェンコにとってのメリット説で言うと、そもそもロシアという国は国境があいまいな国なんです。国際法上の国境はもちろんはっきりしているのですが、ロシアの感覚からすると周辺諸国は「ここもロシアだろう。ここもロシアじゃないか」という勝手な線引きをしているんです。ウクライナ戦争だってクリミアはロシアのものだと思っているから出兵しているわけです。ロシアの隣国であるベラルーシも同様で、ロシアから見たら「ここもロシアのものだ」と本気で思っています。ただし、ベラルーシは別の考えを持っています。スラブ系の正当性で見るならばベラルーシのほうが正統なスラブ人であり、自分たちのほうがロシア人よりも正統なスラブ人だという意識です。
──そもそも国名にルーシが入ってますもんね。
ジェームズ:そうです。ベラ・ルーシはベラが白、ルーシがロシアという意味で、スラブ民族の血はロシアよりも濃いです。いまのロシア人はモンゴル系なんかの血がかなり混じっていますので、スラブ系の正当性を言えばロシアはベラルーシが取ってもいいんですよ。
──ベラルーシがロシアを攻める可能性もあると。
ジェームズ:クレムリンを攻める可能性はあります。そのための手駒としてのプリゴジンです。
──プリゴジンのように軍事に影響力を持つ人間を国内において味方にしておくことは用心棒にもなりますよね。
ジェームズ:ベラルーシの軍事力というよりも総合力が一段とアップしますね。今後、ベラルーシのモギレフ地方でワグネルの基地が作られるそうです。8000人規模の兵士が駐留するようです。現状ではプリゴジンだけがベラルーシに亡命していますが、ロシア国内のワグネル兵士たちへの影響力は維持したままです。しかも、いまロシア軍の兵士たちが続々とワグネルに入っているという話もあります。ショイグ(セルゲイ・ショイグ国防大臣)の指揮下だと死ぬ確率が高いので(苦笑)。
──ただ、ワグネル自体はどうなるんですか? プーチンは罪には問わないと言っていますが、存在したままってこともないですよね?
ジェームズ:組織としては残し、ワグネルの要員との個人契約を通じロシア軍に吸収される予定です。しかし、ロシア正規軍がワグネルを本当に吸収できるのかというと疑問です。そもそも組織を丸呑みするのではなく、個人契約なので。つまり、契約をしない者が大量に残ることになります。しかも、ロシア正規軍の中でワグネル派という派閥ができているんです。
──そこにワグネル本体がきたら吸収するどころか、ロシア正規軍がワグネル化しかねいと。
ジェームズ:そうです。軒を貸して母屋を取られてしまう可能性が高くなっています。
──ショイグやゲラシモフ(ワレリー・ゲラシモフ参謀総長)はどうなるんですか?
ジェームズ:ショイグの去就はまだ発表されていません。日本時間の26日にプーチンとショイグが会って話をするということでしたが、会った様子はありませんね。ただ、現時点でショイグをクビにすることはできないと思います。ショイグをクビにするとプリゴジンの要求を飲むことになってしまうので、プーチンからすると国家の裏切り者の要求に屈する形になってしまいます。将来的にはあるかもしれませんが、いまはないと思います。ゲラシモフは作戦がずさん過ぎるということで処分したいのですが、ショイグと同じ理由でクビにできないんですよ(苦笑)。
──プーチンは軍事的にかなりピンチですね。
ジェームズ:ウクライナはこれで本格的にロシアに侵攻してくるでしょう。そうなるとプーチンはかなり追い詰められることになって核兵器のボタンを押す可能性が高まります。しかし、ここでプリゴジンがベラルーシにいることが鍵になります。実はプリゴジンは前から核攻撃には反対しているのでロシアの核使用を阻止する可能性があります。
──えっ、いまベラルーシに核があるんですか!?
ジェームズ:今年の3月にプーチンはベラルーシに戦術核を配備する計画を発表しているんです。核兵器専用の特殊な保管施設を7月までに作ってロシア版の核の傘みたいなものを作ろうとしています。この話はあとで、もう一つの説とも関係してくるので覚えておいてください。
ともかく、プーチンは核攻撃をしたいのですが、それができるかどうか疑問があります。さきほど言ったようにロシア正規軍がワグネル化しているので、プーチンの言うことを聞くのかわからないのです。
──ロシアの核脅威の可能性はかなり低くなったということですね。
ジェームズ:この見方では低くなりました。プーチンが命じてもロシア軍が動かないと思います。笛吹けども踊らずです(笑)。そうなると、逆に今度はクレムリンがウクライナ軍に占領される可能性が高まってきます。今回のクーデターではウクライナ国境からモスクワ付近まで簡単に北上できてしまったじゃないですか。
──そうですね。なんか、アッという間にモスクワ近郊に迫ってましたよね。
ジェームズ:あれができてしまうということはロシアの国土防衛力はザルだということです(苦笑)。
──そういえば、昔、赤の広場に西側のセスナが降りたことがありましたね(苦笑)。
ジェームズ:ありました。基本的には今もその状態とさほど変わりないということが今回のクーデターで露呈してしまいました。ですから、いまプーチンはかなり追い詰められています。ウクライナの戦車がロシアに入れば余裕で陸路を駆け抜けてモスクワに迫るでしょう。
──つまりロシアは負けると。
ジェームズ:もしも、ウクライナ軍がクレムリンを落としたら、ロシア大統領のイスにはゼレンスキーが座ることになるでしょうね(苦笑)。
──えーっ、ゼレンスキーがロシア大統領!? あの胡散臭い、Tシャツマニアがですか?
ジェームズ:そうです。あのオリーブ色のTシャツでロシア大統領のイスに座ります(笑)。
──なんか凄い光景ですね(苦笑)。
ジェームズ:しかし、ありえないことではないんです。そもそもスターリンがそうで、彼はウクライナから出てロシアのトップに立ちましたから。前から言っているようにロシアという国は異民族が常に権力のイスに座って、ロシア人が権力の座につくことができない国なんです。
──言われてみるとその通りですね。
ジェームズ:しかもゼレンスキーはウクライナ出身でユダヤ人ですからロシアのトップの座に座る資格を持っています。ただし、ここで待ったをかけるのがベラルーシのルカシェンコ大統領です。プリゴジンをロシアに送り込んで政権転覆を狙う可能性が高まります。そうなれば、プリゴジンのワグネル軍とウクライナ軍がロシア国内で戦争を始めるということになり戦争は終わりません。もちろん、あくまでこれは可能性の話ですが、決して起こらないとは言えないものです。すべてはプーチン体制がどこまでこの政変を持ちこたえられるかにかかっていますが、現状かなり弱体化しています。
──朝日新聞でも「プーチン体制の終わりの始まり」なんて見出しの記事を出していますが、プーチン体制を内側から追い落とすような人間っていまクレムリンの中にいるんですか?
ジェームズ:それはいません。逆説的ですが、今回のプリゴジンの反乱によって、プーチンの権力が「国内だけ」に限るとある意味より強固なものになりました。理由はプーチン体制を支えるエリートの中で国内残留組はプーチンが倒れると共倒れ確実なので、無理心中回避のために必勝祈願の毎日だからです(苦笑)。彼らは経済制裁等でロシアしか行き場所がない輩です。いまのロシア国内でプーチンに歯向かえるのはワグネルグループしかありません。ショイグではロシア軍はついてきません。ですから、ロシア軍がワグネル化してプーチンに牙を剥いたらプーチンは終了です。
──そうなる前に第二のプーチン、プーチンに代わるリーダーが出てこないんですか?
ジェームズ:それがプリゴジンだったんです。その前はショイグでした。ですから、いまクレムリンに人材はいないんです。二人とももうプーチンの後継者にはなれません。誰かを無理矢理選んでもクレムリン内の派閥争いが激化するだけで、ロシア国民はもとよりロシア軍もついてこないでしょう。それではリーダーといえませんよね。
──結局、一番のミスはプーチンが民間軍事会社を国防省の下に置くと決めたことですよね。
ジェームズ:プーチンのやり方というのは自分の権力基盤を固めるために下の人間たちを競わせるんです。それをずっとやってきたんですが、今回は誤算が生じてプリゴジンを追い込み過ぎましたね。プリゴジンはアフリカのゴールドという独自の資金源を持っていますし、ワグネルの兵士たちも元特殊部隊の人間で、その数5万人です。ロシア最強の兵士たちなので「そろそろクーデターを起こすか」となってしまったようです。
──ロシア人の間でもワグネルのほうが人気あるんですか、ロシア軍よりも。
ジェームズ:反逆以降、ますますそうなっています。
──反逆者ではなくヒーロー扱いなんですね。
ジェームズ:そうですね。ただし、さっきから言っているように、これは一つの見方であって、もう一つ別の見方もあります。
それはプーチンはプリゴジンをわざとベラルーシに送り込んだんではないか? という説です。
──えっ、これまでの話とまったく逆じゃないですか!?
ジェームズ:逆ですけど、これもありえないとは言えないんですよ(苦笑)。さきほども話したように今年の3月にプーチンはベラルーシに戦術核を配備すると発表し、すでに核兵器を送り込んでいるようなのですね。これはウクライナへの核包囲網になります。ベラルーシはウクライナのすぐ上ですし、キエフにも近いです。そんなところにプリゴジンが亡命したというのは意味深ではないですか?
──意味深ですね……えっ、つまり、それって今回のプリゴジンの反乱そのものがフェイクの可能性があるってことですか!?
ジェームズ:その見方でいけば、そうなりますね。プーチンは最初からプリゴジンをベラルーシに送り込むことが目的で、しかし、普通にワグネルをベラルーシに送り込むわけにはいかないので、見せかけの反逆をさせて、ベラルーシに「亡命」させたというものです。
──凄い謀略っぽくってロシア的ですね(笑)!
ジェームズ:しかも、7月に核保管施設も完成すると言ってるわけですよ(笑)。プリゴジンと核がここでセットになりました。
──怖い話ですねぇ。でも、プリゴジンは核反対じゃなかったですか?
ジェームズ:どういう意味で反対しているかはわからないですよね。人道的な意味では決してないでしょうから、状況次第で核反対はすぐに核賛成になるでしょう(苦笑)。
──そうですね。いやぁ、なかなか面白い話ですね(笑)。
ジェームズ:私も「反逆はフェイク」説は面白いと思いますし、ロシアならやりかねないとは思います。何しろ、ロシアという国の存在自体がフェイクですので(苦笑)。しかし、ショイグがいまだに健在で国防大臣を更迭されていませんから、指揮系統的に現状では難しいとは思います。また、この説の通りだと、ベラルーシはプーチンの子飼いの国扱いということになってしまいます。もちろん子飼いの国ではありますが、常識的に言えば、大国ロシアから核を押し付けられ、扱いにくいプリゴジンもやはり押し付けられたと考えるほうが普通ですからね。まあ、普通が通用しないのがロシアですが(苦笑)。
──両方の可能性があると。西側はいまどう判断しているんですか?
ジェームズ:ロシアが弱体化していることは確かなので、高笑いしています。デイヴィッド・ペトレイアス元CIA長官などは、CNNのインタビューでプリゴジンに対し「窓際には行くなよ」とアドバイスしています。これは「窓際にいると突き落とされるので、クレムリンの暗殺工作に気をつけよ」という意味です。プリゴジンはすでに欧米の諜報機関関係者の間では事実上「英雄」の扱いを受けています。誰も今回の反乱で彼を責めた者はいません。
──そうでしょうね(苦笑)。
ジェームズ:アメリカの国務省はプリゴジンの反乱が「もっと流血していてもよかった」などと発言しています(苦笑)。これはアメリカが裏でプリゴジンの反乱を支援していたと取られかねない発言なのに、本当に脇が甘いです(苦笑)。あとは中国の動きですね。台湾侵攻、北海道侵攻なども含めて話しておかなければいけないことがたくさんあります。これについてはメルマガでお話ししましょう。ともかく、二転三転しているので、ますます予断を許さない状況になっています。
文=中村カタブツ君
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提供元・TOCANA
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