「北海の謎のくぼみ」の原因が判明!容疑者は思いもよらない「可愛い存在」だった
研究チームは、謎のくぼみをより詳細に調査するために、最新の音響測深機器を使いました。
その結果彼らは、北海の海底に、平均の深さが11cmの「浅いくぼみ」を4万2458個、発見しました。
これらはメタンガスで形成される「円錐型のクレーター」とは異なります。
そして数カ月かけて同じ調査海域を繰り返しマッピングすることで、海底のくぼみが発達していることも分かりました。
地下からの噴出ではなく、次々と増えるくぼみは、誰かが掘っていると考えるのがもっとも自然な結論です。
そこで研究チームは、調査データを「海洋物理学」、生物学者の協力による「行動生物学」、「さまざまな生物の生息地の情報」と組み合わせ分析しました。
その結果、「くぼみを作った犯人」像に、ある容疑者が浮かび上がってきたのです。
その容疑者とは、小型のイルカである「ネズミイルカ(学名:Phocoena phocoena)」です。
調査により、北海のくぼみが見つかった海域とネズミイルカの生息地は一致していました。
そしてこのネズミイルカの捕食対象には、ある特徴があり、それが今回の問題と見事に一致する可能性が出てきたのです。
まず、座礁したネズミイルカの胃の内容物の分析から、イカナゴ科(学名:Ammodytidae。以後、「イカナゴ」と呼ぶ)の魚がネズミイルカにとって重要な食料であることが分かりました。
このイカナゴは、円筒形の細長い体型を持ち、最大種では全長30cmほどまで成長します。
そして砂地に潜る習性があり、特に夜間は砂地の海底に体をうずめて休息します。
そのため研究チームは、北海の海底に無数に見つかる謎のくぼみはイカナゴを捕食するネズミイルカの仕業だと推測したのです。
確かにネズミイルカは上図の通り、①エコーを使って海底に潜ったイカナゴを見つけ、②口の先を海底に食い込ませながらイカナゴを狩ります。そしてその際、小さなくぼみを海底に作るのです。
(イルカは、このような海底をつつくな捕食行動にかなりの時間を費やすことで知られています)
その後、③海水の流れによって小さなくぼみが侵食され、くぼみが広がったり繋がったりすることで、より大きなくぼみへと成長していきます。
そして、多くのネズミイルカによって、これが繰り返されていきます。
一方で、④主に冬に到来する激しい嵐によって、くぼみが平らになることもあるようです。
これらの様々な調査や分析からすると、確かに「北海の無数のくぼみ」を作っているのは、ネズミイルカである可能性が高そうです。
とはいえ、この仮説を裏付ける「直接的な写真」は得られていません。
ダイムリング氏は、「証拠写真を入手したいですが、北海は濁っていてあまり見えません。それに、ネズミイルカはかなり恥ずかしがり屋なのです」と述べています。
ちなみに、この「ネズミイルカのくぼみ」仮説は、北海以外の海域にも当てはまるようで、「世界中の海底に存在する何百万ものくぼみ」を作ったのもイルカである可能性が示唆されています。
「海底に無数にできる謎のくぼみ」を作っている犯人が、実は食いしん坊で恥ずかしがり屋のイルカたちだったというのは、なんとも可愛らしい仮説ですね。
参考文献
Millions of mysterious pits in the ocean decoded
Millions of mysterious crater-like ocean pits are linked to porpoises
Mysterious Seafloor Pits May Be Made on Porpoise
元論文
Millions of seafloor pits, not pockmarks, induced by vertebrates in the North Sea
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。