そこにモスクワからナワリヌイ氏の獄死が伝わってきた。ヴチッチ大統領は18日、セルビアのテレビ局ブルヴァで「クレムリンとの関係が今後難しくなる」と正直に懸念を表明したという。47歳の若い反体制派活動家の獄死は53歳とまだ若い世代に入るヴチッチ大統領にとってもまったく他人事とは言えない。もちろん、ヴチッチ大統領の言動はセルビア大統領としてというより、一人の人間としての反応だろう。セルビアの親ロシア政策がナワリヌイ氏の死を契機に大きく変わるということは考えられないが、何の影響もないとは断言できない。

ヴチッチ大統領のセルビアはロシアから安価な石油やガスを得る一方、中国との経済関係を深め、EUからは先進工業製品や消費財を得るという基本方針には変わらない。セルビアの近未来の路線は、ロシアとウクライナ間の戦争の行方と、米国の次期大統領選の動向に依存しているともいえる。その意味で、ヴチッチ大統領の二股外交はここしばらくは続くだろうが、年末までにはひょっとしたら選択を強いられるかもしれない。

ヴチッチ大統領と共に親ロシア派のハンガリーのオルバン首相は先月24日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長との電話会談でスウェーデンの早急な加盟批准を国民議会に要請した旨を伝えている。

オルバン首相の場合、プーチン大統領の唯一のEUパートナーであり、ウクライナ戦争ではEUの対ロシア制裁を拒否、EUのウクライナ支援にも拒否権を行使してきた生粋の親ロシア派政治家だ。そのEUの異端児として知られているオルバン首相がスウェーデンのNATO加盟ボイコットを中止するというのだ。

冷戦時代、ソ連共産党政権は東欧諸国を衛星国家として支配し、西側に傾斜する政治的動きが見られるとワルシャワ条約機構軍を侵攻させ、東欧諸国の国民を圧政してきた歴史がある。その後継国ロシアのプーチン大統領は現在、ウクライナにNATO加盟、EU加盟の動きが出てくると軍をウクライナに侵攻させている。

オルバン首相はロシアから安価な天然ガスなどの供与を受ける一方、ロシアの援助を受け原発の新設を進めるなど、モスクワとは深い経済的つながりがあるが、ナワリヌイ氏の獄死はオルバン首相にとっても一過性の出来事ではないはずだ。多分、これは当方の一方的な希望的観測に過ぎないだろうが、そうあってほしいものだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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