北朝鮮最高指導者・金正恩総書記は2019年2月、ベトナムのハノイでトランプ米大統領(当時)と首脳会談を行ったが、その外交は成果なく終わった。北朝鮮の最大の外交課題は当時、米国との関係改善、対北制裁の解除だった。金正恩氏にとって米朝交渉の失敗は大きな痛手となって残ったという。金正恩総書記はその後、核戦力の強化に乗り出す一方、中国、ロシアとの関係拡大に腐心してきた。ハノイの米朝首脳会談の暗礁後、北は非核化交渉を放棄し、韓国を最大の敵対国とし、核保有国のステイタス獲得を目指してきた。北側の国家戦略が大変化したわけだ。
その北朝鮮が大きく転換したのはロシア軍のウクライナ侵攻だった。ウクライナ戦争が長期化していった事を受け、プーチン大統領は武器不足を解決しなければならなくなった。プーチン氏から金正恩総書記に声がかかった。昨年9月、ロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地で行われたプーチン大統領と金正恩総書記の首脳会談は米朝首脳会談とは180度異なり、多くの成果を北側にもたらした。
露朝首脳会談後の両国の関係は急速に深まっていった。目に見える実績は、①北朝鮮は7000個のコンテナに弾薬(約250万発と推定)をモスクワに輸送、②それに引き換え、ロシアからは軍事衛星関連技術の支援、食糧などの物質援助が行われた。
プーチン大統領と金正恩総書記は昨年9月、首脳会談でロシアと北朝鮮間の軍事協力の強化などで合意したといわれている。その最初の成果は北朝鮮の軍事偵察衛星「万里鏡1号」の打ち上げ成功だろう。過去2回、打ち上げに失敗してきた北朝鮮はロシアから偵察衛星関連技術の支援を受けた結果、昨年11月21日の3回目の打ち上げに成功した。ちなみに、北側がロシア側に期待している軍事分野での支援は衛星関連技術、原子力潜水艦、核開発の向上などだ。ただしロシアと言えども、核関連ノウハウを北側に譲渡することは現時点では考えにくい。
米国情報当局者らによると、ロシアは、ロシアの金融機関に預けられている北朝鮮の凍結資産3000万ドルのうち900万ドルの放出を許可した。また、ロシアは北朝鮮にロシアの地方銀行に口座を開くことを承認するなど、金融分野でも北側を支援している。その結果、北側はロシア国内で開いた銀行口座を利用して貿易取引が可能となる道が開かれた、と受け取られている。