受け入れ態勢の問題
インバウンド需要はコロナ禍でもみられたように変化が激しい。コロナ禍のような疫病リスクはこれまでも繰り返し起こっている。新型インフルエンザしかり、SARSしかりである。また台湾問題のような政治リスク、リーマンショックのような経済リスク、地震や台風などの災害リスクなど不安の種は尽きない。
そしてせっかくの需要回復を一部のホテルは指をくわえて見つめているが、受け入れ態勢の問題があるからだ。長く続いたコロナ禍の影響で、従業員の数を絞り込んだのだが、いざ景気が回復して従業員を呼び戻そうにも、すでに他業種などに転職して雇用がままならないのだ。ただでさえ不規則な勤務時間、神経をすり減らす接客業務、少ない報酬でリクルーティングが厳しい業界であったのが、経済の回復にしたがってより良い条件のところに人が流れてしまっているのだ。リネンの交換や客室清掃についても、コロナ禍を契機に高齢従業者が引退し、外国人労働者もコロナ禍で帰国後は円安の日本での労働に魅力を感じない人が増え、いまだに続く入国規制もあいまって、思うようにはならなくなっている。
したがって稼働をもっと増やしたいと思っても、サービス要員が足りずに顧客からの予約を泣く泣くキャンセルしているような事例が頻発しているという。予約しようとして満室だとして断られるケースでも、実際には人員が追い付かず稼働率を100%には持っていけないホテルが多く存在しているのだ。
コロナ禍の期間中に金融機関からコロナ関連融資を調達して延命を続けてきた中小ホテルのなかには、返済が始まった今年あたりから、せっかく回復し始めた需要を横目に廃業や売却を余儀なくされているホテルも出始めている。弱肉強食の世とはいえ、コロナ禍で傷んだホテル業界は、必ずしも手放しで喜んでいるというわけではない。需要回復を見込んで新たなホテル開発に挑もうとする業者にとっても、昨今は建物建設費が急騰した結果、ホテルをオープンしても採算が取れない状況に陥っており、そうした業者が中小ホテルを買収する事例も増えている。しばらく業界ではこうした物件や銘柄の新陳代謝が進み大きく変動することが予想されている。一見すると華やかに見えるホテルの舞台裏にも、厳しい風が吹いているのである。
(文=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)
提供元・Business Journal
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