先月24日に東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた船井電機。同社の代表取締役会長だった原田義昭氏(80)が同決定の取り消しを申し立てたと12日付「朝日新聞」記事が報じている。朝日記事によれば、原田氏は民事再生法の適用を申請する方針だというが、なぜこのような異例の事態が生じているのか。また、債務超過に陥っているとみられる船井電機に仮に民事再生法が適用された場合、再生の可能性はあるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

 船井電機の破産に至る経緯をめぐっては、不可解な点が目立つことが注目されてきた。船井電機は2021年に出版社の秀和システムの子会社・秀和システムホールディングス(HD)に買収されたが、まず出版社系の企業が電機メーカーを買収するという例は珍しい。買収前の20年度の時点では、船井電機は売上が804億円、営業損益が3億円の赤字、最終損益が1200万円の赤字で、現預金は344億円、純資産は518億円あった。借入は1.8億円と、現預金・純資産の額からみれば問題のない水準。だが、秀和による買収後わずか3年で負債総額は461億円に膨れ上がり、117億円の債務超過に陥り、破産手続きが開始されることに。昨年度の売上高は3年前の約半分の434億円、最終損益は131億円の赤字となった。

 なぜ、数年のうちに船井電機の財務状況が急速に悪化したのか。振り返ると、最初の秀和システムHDによる買収のスキーム自体が異例のかたちだった。秀和は船井電機の買収資金のうち180億円を銀行から借り入れで調達する際、船井電機の定期預金を担保にし、船井電機に保証させるかたちにしていたのだ(10月30日付「読売新聞」記事より)。最終的に担保は銀行に回収されている。

 秀和は23年に船井電機の持ち株会社として船井電機・ホールディングス(HD)を設立し、同年に船井電機HDは脱毛サロン・ミュゼプラチナムを買収したが、ミュゼプラチナムへの資金援助が原因で船井電機には33億円の簿外債務が発生。さらに船井電機は船井電機HDに多額の貸し付けを行い、焦げ付きが発生していた。これらの結果、船井電機からは秀和による買収後、約300億円の資金が流出したという。

 ちなみに船井電機HDの年度別事業報告書によると、同社の純資産は2020年度は518億円だったが、23年度には202億円にまで減少している。

「一連の資金の動きは不可解ですが、結果的に船井電機に蓄えられていた多額の資金が抜かれる格好になりました。船井電機HDを設立したのは秀和の意向によるものと考えられますが、船井電機HDも債務超過に陥っているという報道もあり、いまいち秀和の意図がよくわかりません。少なくとも船井電機の買収の目的が、同社の再建ではなかったことは確かでしょう」(証券業界関係者)

外国企業に買収されることで延命も

 破産手続き開始決定のプロセスも異例だ。一般的に船井電機ほどの規模の大企業は、取締役会など会社としての正式決定を受けて裁判所に自己破産を申し立てるが、今回、船井電機は準自己破産を申し立てていた。これはなんらかの理由で正式に取締役会の承認を得ている猶予がない場合などに取られる手段であり、一部の取締役のみでも申し立てが可能だ。

 ここ数カ月、船井電機の経営体制は不透明な状況だった。これまで船井電機の社長には秀和システム代表取締役の上田智一氏が就いていたが、今年9月に退任。10月3日には、社長後任には元日本政策金融公庫専務の上野善晴氏が、会長には元環境相の原田義昭氏が就任すると発表されていたが、同社公式サイト上の会社概要の役員一覧には上野氏の名前はなく、また社長の名前も記載されていなかった。現在80歳の原田氏は元通産官僚で長く政治家を務めており、経歴を見る限り企業経営・再建の経験は未知数だ。

「準自己破産の申し立ては運転資金の枯渇に焦った取締役のひとりが行ったものとみられており、原田氏は知らされていなかった。そもそも経営のプロではない原田氏が会長に就いたのは、知人を介して頼まれて名前と肩書を貸すくらいの感覚だったのではないか。ただ、それでも代表取締役会長である以上は形式上は船井電機の代表者なので、破産の後始末に責任をもって対応する義務を負っており、また債権者など多くのステークホルダーからの訴訟リスクもある。原田氏は事の重大さを認識して、破産の取りやめと再建に動き出したということではないか」(全国紙記者)

 では、再建の可能性はあるのだろうか。

「裁判所がいったん決定した破産手続き開始を取り下げて、民事再生法適用の申請を認める可能性は低いが、仮にそれが通ったとしても、再建の可能性は低いでしょう。ただ、船井電機にはテレビをはじめとする商品と生産設備、販路があるので、秀和との関係を切って、まったく新しい資本と経営体制の下でリストラと経営改革が行われれば、再建の可能性はゼロではないかもしれません。もしくは、その生産設備や技術を欲しがる日本企業、もしくは中国や韓国、台湾などの外国企業に買収されることで延命するというかたちも考えられます。そうなれば一定数の雇用が守られるかもしれないので、破産よりはよいかもしれません」(大手銀行系ファンドマネージャー)

(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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