ユニクロで外国人による組織的な窃盗が横行している。特にベトナム国籍の外国人による組織的な犯行が相次いでおり、大きな被害が出ている。なぜユニクロが狙われるのか。また、ユニクロはベトナムにも進出しているのに、なぜ日本の店舗で犯行を重ねるのか。専門家は、ベトナムのアパレル事情を要因と分析。さらに、セルフレジの問題点も指摘する。
今月3日、ユニクロで万引きを繰り返したとして、大阪地裁はベトナム国籍の女2人に懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。2人は今年1月、わずか1週間のうちに、たて続けに大阪や京都のユニクロ店舗で146点、約35万円相当を盗んだという。盗んだ商品はベトナム国内で転売する目的だったようだ。
また2月には、ベトナム人男女4人が福岡市の商業施設にあるユニクロ店舗で衣料品87点、およそ35万円分の商品を盗んだとして福岡県警に逮捕された。調べによると、2018年から2023年までの間、ユニクロ以外にも関東や関西のさまざまな店で犯行を繰り返していたことが判明しており、少なくとも66回の犯行が確認されている。
さらに、大阪市内などのユニクロで万引きを繰り返したベトナム人グループの女3人を今年2月、大阪府警が窃盗容疑で現行犯逮捕している。短期滞在ビザで来日し、東京や関西の延べ37店舗で約3300点、約1230万円相当を盗んだという。
報道によると、商品をボストンバッグなどに入れて店外に持ち出し、店外でスーツケースなどに詰め替えるという犯行を繰り返していたという。
ユニクロがベトナム人窃盗団に狙われるワケ
なぜ日本のユニクロがベトナム人窃盗団に狙われるのだろうか。アパレル業界でトレンドリサーチやコンサル事業などを手がけるココベイ社長の磯部孝氏に聞いた。
――ユニクロ被害はかなり出ているのでしょうか。
「詳細な数字は把握していないのですが、報道されているところを見る限り、窃盗団の手口はかなり悪質です。集団的・組織的な犯行ですから、被害金額は相当大きいと思います。一般的に小売りにおける“ロス率”は一店舗あたり売り上げの1~3%で、アパレルは1%くらいです。しかし、集団的な窃盗被害に遭ったユニクロでは、1%を超えてくる可能性はあります」(磯部氏)
――ユニクロが狙われているということは、それだけ海外でのユニクロ人気が高いといえるのでしょうか。
「そうなんです。ユニクロは現在海外で1634店舗展開しているのですが、国別・エリア別では、グレーターチャイナ(中国・香港・台湾)がもっとも多く1031店舗、韓国が126店舗、アジア・オセアニアが342店舗、北米が67店舗、ヨーロッパが68店舗であることを考えると、ユニクロの店舗はアジアに集中しているといえます。アジア・オセアニアにはマレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、インドなどが含まれていますが、経済発展途上にある国といえ、今後、さらに出店していく可能性が考えられます。
ベトナムに関しては現在19店舗ありますが、ベトナム市場に進出したのが2019年末ですから、初出店から5年弱です。この間、ユニクロのみならずH&MやZARAといったファストファッションのブランドが人気を博しています。発展途上国ではよくあることなのですが、人気ブランドの模造品が多く出回ります。また、ベトナムローカルのファッションブランドは、まだ家族経営や小さい資本の企業が多く、海外ブランドに比べてファッション感度が劣っていたり、品質にも不安があるのが現状です。そんななかで日本製のユニクロは、ローカルブランド品の数倍の値段でもニーズがあるのです」(同)
――報道によると、窃盗団はボストンバッグなどで店外にまとめて商品を持ち出すという手口を繰り返しているようですが、ユニクロでは全商品に盗難防止タグも付いており、防犯センサーが鳴るのではないでしょうか。
「ユニクロはRFID(Radio Frequency Identification:無線周波数識別)という電子タグを採用し、セルフレジを国内大半の店舗に導入していますが、レジの省人化は店の利益に直結する部分です。この窃盗団の犯罪は、そこを逆手に取ったものといえます。
その背景には、日本市場の特殊事情があります。小売店では盗難防止用のタグが付いている商品がありますが、センサーに誤作動が生じることがあります。アラームが鳴った際に、店員がお客を呼び止めて調べることになりますが、それが間違いであった場合のケアなどを嫌う国民性というか、“お客様第一”主義的な対応がつけ狙われている要因かと思います」(同)
――アラームが鳴っていても、あまり店員に調べられない傾向がある店舗が狙われているということでしょうか。
「一般的にセルフレジでは、商品に付いたバーコードをお客が自ら一つひとつスキャンしますが、ユニクロのセルフレジはカゴごと全商品の情報を読み取ります。それはラベルに電子タグが埋め込まれていて、そこから発信されている電波をレジが自動的に読み取る仕組みですが、それも完璧ではありません。たとえば、水に濡れたり、通信に影響が出る素材があったりすると、電波を読まないことがあります。そのようなエラーは極めて少ないとは思いますが、誤作動に対して店側が遠慮していた嫌いがあったのではないかと考えています」(同)
――ユニクロはベトナムにも進出しているのに、日本のユニクロ店舗で窃盗を行うということは、やはり日本国内で売られている製品に価値があるといえるのでしょうか。
「日本の店が狙いやすいということもあるかもしれませんが、日本で流通している製品にウマミというか価値があるのでしょう。日本語の製品タグが付いている、というのもブランド価値になっている可能性は考えられます」(同)
――ユニクロ以外のブランドでも窃盗団に狙われているのでしょうか。
「H&MやZARAはユニクロ以上に人気があるので、窃盗団に狙われている恐れはありますが、ユニクロと違う点として、商品自体に盗難防止ブザーが付いており、精算せずに店外に持ち出すとブザーが鳴るという対策を取っています」(同)
――今後、ユニクロが取り得る対策は何か考えられますか。
「ユニクロもスタッフの教育を見直し、店舗全体の高めていくとのコメントを出していますが、セルフレジの導入について慎重になる必要があると思います。
セルフレジを導入する小売店が、ここにきて急速に増えています。たとえばスーパーマーケットで、セルフレジを導入した100社にアンケートを取ったところ、12社で盗難が増えたとの報告があります。アパレル以外でもセルフレジ導入は広がっているわけですが、同時に防犯対策も高めていこうとの機運も高まっています。今後、セルフレジ導入に伴い、盗難が増えないような対策も練られていくとみています。当然、ユニクロでも窃盗団による被害を受けて、新たな防犯対策を検討していることと思います」(同)
――セルフレジが広まる背景として、人手不足もあるのでしょうが、盗難等による売り上げロスを含めても、セルフレジ導入による人件費削減のほうが利益率向上に寄与するといえるのでしょうか。
「先ほども申しましたが、ロス率は売り上げに対して1~3%です。このロスには、盗難や棚卸でのミス、不良品なども含まれています。そう考えると、盗難被害があったとしても、セルフレジをやめて有人化しようとはならないでしょう」(同)
窃盗団による大規模犯罪のターゲットにされるほど、ユニクロは世界的人気ブランドになったともいえるが、昨今、巧妙かつ大胆に行われる犯行への対策は、“お客様第一”や“おもてなし”を重視してきた日本の接客業に大きなダメージを与えかねず、企業の頭を悩ませることになるだろう。
(文=Business Journal編集部、協力=磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)
提供元・Business Journal
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