地球上の重力の強さは一定ではなく、実は場所によって小さな誤差が生じています。

例えば同じ体重計を使って計測すると、北海道と沖縄県では約0.14%の差が生じます。

とはいえ、これらはよく知られた事実であり、地下に埋蔵している重い元素の密度などによって説明できます。

しかし地球上には、科学者たちが未だ理解できていない重力異常が存在します。

それが地球上の他の場所よりもはるかに重力が弱いという、インド洋にある「重力の穴」です。

この原因は未だに解明されていませんが、インド科学大学(IISc)に所属する地球科学者デバンジャン・パル氏ら研究チームは、約2億年前に存在していた幻の海「テチス海」のプレートが原因だったという新説を唱えています。

研究の詳細は、2023年5月5日付の科学誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。

インド洋にある「重力の穴」の謎

地球の重力の強さは場所によって異なります。

これは緯度や高度、地下の岩石の密度などが原因であり、科学的に説明できます。

現代では、正確な調査と分析により、地球全体の重力の違いを視覚的に認識することもできます。

重力地図。赤になるほど重力が強く、青になるほど弱い
Credit:ESA – GOCE High Level Processing Facility

ただし、インド洋には未だ原因がはっきりと分かっていない謎の重力異常が見られており、「インド洋低ジオイド地域(IOGL:Indian Ocean geoid low)」と呼ばれています。

通称はインド洋の「重力の穴」であり、重力地図で見ると、確かに地球にぽっかりと穴が開いたようにそこだけ重力が弱くなっているのが分かりますね。

この円形の「重力の穴」の面積は約300万km2であり、インド本土とほぼ同じ大きさです。

加えてその局所的な重力の弱さから、この領域の海水面は、地球の平均海水面より最大106mも低くなります。ため)

重力が強いと海水面は高くなり、重力が弱いと海水面も低くなる
Credit:国土地理院_重力の正体(PDF)

海水は月の微弱な重力にさえ引っ張られて潮汐を起こしています。そのため地球上の重力が強いポイントに海水は引き寄せられて海水面が盛り上がり、重力の弱いポイントは逆に海水を奪われて海面が下がってしまうのです。

とはいえ、「重力の穴」に見られるほど極端な違いを生じさせるのは、まさに異常だと言えます。

そんな巨大で異常な「重力の穴」は、1994年にオランダの地球物理学者フェリックス・ベニング・マイネス氏によって発見されましたが、未だにその原因は解明されていません。

そして約40年が経過した現在、デバンジャン・パル氏ら研究チームが新説を提唱しました。

多くの科学者たちは、今の現象に目を向けてきましたが、彼らは遠い過去に目を向け、その原因を理解しようとしました。