公式記録との食い違いと伝説の真相
一方、英国海軍の公式記録は、UB-85は哨戒艇発見後に潜水を試みたが、ハッチの密閉不良と浸水により浮上を余儀なくされ、拿捕されたと記している。
艦長の証言と公式記録の食い違いは、長年の議論の的となっている。懐疑論者は、艦長が機械の故障を隠蔽するために、あるいは物語を面白くするために、話を脚色したのではないかと主張する。しかし、第一次世界大戦中や第二次世界大戦中に潜水艦が海の怪物に遭遇したという話は他にもあり、例えば、U-28の乗組員は、英国船を沈めた後、巨大なワニのような生物を目撃したと主張している。
これらの話は、戦争という極限状態における心理的ストレスと、広大で未知の海への畏怖が反映されたものと言えるだろう。海の怪物伝説は、北欧神話のクラーケンやネス湖のネッシーなど、古くから海洋文化に根付いており、巨大な生物との偶然の出会い、未知のものへの恐怖と畏怖といった要素が共通している。それは、海の未知の領域に対する、人間の尽きない好奇心を表していると言えるだろう。