帯状疱疹ワクチン「シングリックス」は認知症リスクを低下させる
今回、タケット氏ら研究チームは、帯状疱疹ワクチンであるシングリックスを接種した人々にどのような影響があるのか調査しました。
彼らは、グローバル臨床医療データサービス「TriNetX」における20万人以上のデータを使用し、シングリックス接種後の6年間の認知症リスクと、ゾスタバックス接種を受けた人々を比較しました。
またシングリックスは、他の感染症(インフルエンザや破傷風など)のワクチンとも比較されました。
その結果、シングリックスを接種した人は、ゾスタバックスを接種した人より、ワクチン接種後6年間の認知症の発症リスクが17%低いと分かりました。
またシングリックスを他の感染症のワクチンと比べたところ、シングリックスの方が認知症の発症リスクを23~27%低下させることも分かりました。
ちなみに、これらの効果は男女ともに見られましたが、男性よりも女性の方が特に効果的だったようです。
そしてシングリックスの認知症の発症リスク低下の効果は、ワクチン接種から6年経った後も続いている可能性があります。
しかし今回の研究では、データが不足しているため、それ以上の結果を出していません。
今回の結果は、「帯状疱疹ウイルスが認知症のリスクを高める恐れがあり、帯状疱疹の予防接種によって認知症も予防できる」という仮説を裏付けるものです。
そして、新しいシングリックスでは、より高い効果が見込めるようです。
一方で、この研究に関わっていないイギリスのエディンバラ大学(The University of Edinburgh)のリチャード・レイス氏は、帯状疱疹ワクチン以外でも、複数のワクチンが認知症の発症リスクを低下させることを指摘しています。
例えば、結核を予防するワクチンには、認知症リスクをある程度低減させる効果があると報告されています。
つまり、レイス氏によると、帯状疱疹の予防が認知症の予防に役立つと言うよりも、いくつかのワクチンによって体の免疫力全般を高めることが、認知症の予防に役立っている、というのです。
現段階では、どちらの推測がより正しいのかは分かりません。
それでも帯状疱疹ワクチン「シングリックス」が実際に認知症の予防に役立つ可能性は高いと言えるでしょう。
高齢者の中には、帯状疱疹の予防のためにワクチン接種を受ける人もいるでしょうが、そうした人々は、同時に「認知症の予防」という追加効果が付いてくるのかもしれません。
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参考文献
New shingles vaccine could reduce risk of dementia
https://www.ox.ac.uk/news/2024-07-25-new-shingles-vaccine-could-reduce-risk-dementia
元論文
The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia
https://doi.org/10.1038/s41591-024-03201-5
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。