コンビニエンスストアチェーン業界1位のセブン-イレブンが“一人負け”の様相を呈しているのではないか、という声が広まっている。2024年6~8月度の既存店売上高が、ファミリーマートとローソンが前年同月比増加となったのに対し、セブンは減少となったのだ。これは何を意味するのか。また、セブンの失速が深まる可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
コンビニチェーン各社の国内店舗数は、セブン-イレブンは2万1442店(8月末現在)、ファミリーマートは1万6273店(同)、ローソンは1万4643店(2月末現在。ナチュラルローソン、ローソンストア100を含む)と、セブンが圧倒的に多い。また、全店平均日販(一店舗あたりの一日の売上高)はセブンが69万1000円(23年度)、ファミリーマートが56万1000円(同)、ローソンが55万6000円(同)となっており、店舗の稼ぐ力もセブンが強い。
そんなセブンに異変が生じている。24年6〜8月度の既存店売上高がすべての月で前年同月を下回ったのだ。
・6月度:前年同月比99.5%
・7月度:同99.4%
・8月度:同99.8%
ちなみにファミマとローソンはすべての月で前年同月比増となっており、減少はセブンだけにみられた。少し前から変調の兆しはあった。持ち株会社セブン&アイ・ホールディングス(HD)の2024年3~5月期の連結決算は、国内コンビニ事業の営業利益が前年同期比4%減となり、既存店売上高が前年を下回る月も出ていた。
「まいばすけっと」の存在
背景には何があるのか。流通アナリストの中井彰人氏はいう。
「今年5月まで実質賃金が過去最長の26カ月連続マイナスとなるなか、消費者がこれまで以上に価格に敏感になり、格安スーパーや低価格な食品を扱うドラッグストアの売上が伸びており、リーズナブルな価格設定に定評があるイオンのプライベートブランド(PB)『トップバリュ』も伸びています。こうした業態と比較してコンビニ商品の価格は割高で、値引きも行わず、あまり価格を意識しない層や時間がないので多少高くても急いで購入したいという層をメインの顧客ターゲットとしてきましたが、消費者がこれまで以上に価格の絶対値を意識するようになり、特にコンビニのなかでも高価格帯というイメージが強いセブンの売上に影響が出てきた可能性が考えられます。
また、ファミマとローソンは価格据え置きの増量キャンペーンを展開するなど、価格を意識した取り組みを行ってきましたが、セブンはその点では遅れてしまったという要因もあるでしょう。セブンは9月に入って、手頃な価格の『うれしい値!』商品を拡充して270アイテムまで増やすと発表しましたが、価格対応が他2社よりも遅れてしまったのは確かでしょう。
このほか、あくまで推察ですが、イオングループのミニスーパー『まいばすけっと』に客が流れている可能性も考えられます。セブンの近隣にあったファミマやローソンが撤退した場所に『まいばすけっと』が出店するケースは少なくないですが、これまでセブンを頻繁に利用していた客が、価格を意識するようになり、トップバリュをはじめとする低価格の商品が並ぶ『まいばすけっと』に流れるという現象が起きているのかもしれません」
セブンは少し前から徐々に割安な商品のラインナップを拡充させてきた。たとえば7月には、従来からある「味付海苔 炭火焼熟成紅しゃけ」(税込189円)の販売を継続する一方、「手巻おにぎり しゃけ」(138.24円)を発売。税抜価格は128円で120円台に抑えた。このほか、「手巻おにぎり ツナマヨネーズ」を138.24円で発売したが、従来151.20円で販売していた同名商品からの切り替えとなるため、事実上の値下げとなっていた。
セブンは「うれしい値!」商品として、従来の「五目炒飯」「麻婆丼」「バターチキンカレー」をリニューアルするかたちで今月、348.84円で発売。また、牛乳やポテトサラダなどPB「セブンプレミアム」の一部商品も「うれしい値!」商品として扱う。
実力の差は歴然
では、このままセブンの失速が深まり、他2社との差が縮まるという展開はあり得るのか。
「時間に余裕があるときは割安なスーパーを利用する人でも、時間がないときには多少高くてもコンビニを利用するというように、コンビニを利用する客には理由があるので、コロナ流行初期のような大きな社会的変化がない限りは、コンビニの来客数が大きく減るということはないでしょう。セブンの6~8月度の既存店売上高が減ったといっても、その下がり幅は前年同月比で1%以下という極めて小さなものです。遅れたとはいえ『うれしい値!』をはじめとする価格対応の取り組みも始まっており、またコンビニの顧客は価格という要素だけで判断して利用しているわけではないので、今後大きく売上が下がるということは考えにくいです。
何より注目すべきは平均日販です。セブンはファミマとローソンに10万円以上の差をつけて上回っており、実力の差は歴然としています。ファミマは2020年に伊藤忠商事の完全子会社になり、ローソンも今年、三菱商事とKDDIが50%ずつを出資する形態になりましたが、要はファミマもローソンも単独での生き残りを諦めたということです。両者とも大手総合商社が描く経済圏戦略・DX戦略のなかで最終消費者との接点の一つという位置づけになっていくと考えられます。
一方、セブンはコンビニを進化させたミニスーパー型店舗、具体的には『まいばすけっと』よりも大きく品揃えを豊富にした店舗の展開を計画しており、コンビニ市場よりも大きなスーパーの需要の取り込みを狙っています。これはセブン&アイグループのスーパーストア事業に生鮮食品を扱うノウハウを持っているからこそできることで、ファミマとローソンには無理な芸当です。カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイHDへの買収提案という不確実な要素は存在するのもの、セブンのコンビニ業界におけるリーディングカンパニーという位置づけが揺るぐことは当面ないでしょう」(中井氏)
(文=Business Journal編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)
提供元・Business Journal
【関連記事】
・初心者が投資を始めるなら、何がおすすめ?
・地元住民も疑問…西八王子、本当に住みやすい街1位の謎 家賃も葛飾区と同程度
・有名百貨店・デパートどこの株主優待がおすすめ?
・現役東大生に聞いた「受験直前の過ごし方」…勉強法、体調管理、メンタル管理
・積立NISAで月1万円を投資した場合の利益はいくらになる?