ドン・キホーテの“自由すぎる仕入れ”がSNS上で話題になっている。きっかけは、『日経スペシャル カンブリア宮殿』(テレビ東京系)にドン・キホーテが2週にわたって取り上げられたことによる。そのなかで、一般的な小売業の常識を覆すような仕入れ体制を取っていることが明らかにされ、衝撃が広がっているのだ。仕入れの専門家とともに、ドンキのすごさを紐解く。

 10月24日と31日の2回にわたって、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)に総合ディスカウントストア大手ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス社長兼CEO(最高経営責任者)の吉田直樹氏が出演した。売上高2兆円を超え、日本の小売業界で「セブン&アイホールディングス」「イオン」「ファーストリテイリング」に次ぐ4位にまで成長した原動力を分析する内容だった。

 ドンキといえば、パーティー用品や雑貨から飲食料品、化粧品、アウトドア用品、宝飾品、家電など幅広い品ぞろえと、「圧縮陳列」と呼ばれるうず高く商品を積み上げる独特の陳列方法が特徴的で、圧倒的な商品の山が話題になることが多い。また、価格決定が現場担当者の裁量に委ねられているという事情も広く知られている。

 だが、今回の放送で明らかになったのは、創業者・安田隆夫氏の時代から脈々と受け継がれてきた大胆な“権限委譲”の文化だ。各店舗のそれぞれの売り場の担当者が、自分の判断で商品の仕入れから価格設定まで行っており、なかにはアルバイト従業員がメーカーと商談して商品を仕入れているケースもあるという。一人ひとりの裁量が大きく、自由度が高い。だが、裏を返せばリスクも高い経営といえる。それにもかかわらず、なぜドンキは業績を伸ばしてこられたのか。

ドンキの型破りな経営の裏側

 調達・購買コンサルタント、経営評論家で未来調達研究所株式会社取締役の坂口孝則氏は、ドンキの型破りな経営を分析する。

「ドンキは今のように大きくなる前から、仕入れ担当者ごとに銀行口座や通帳を持たせており、権限を分化させていました。日本の小売業は、本社に権限を集中させて各店舗はオペレーションに専念することで経営効率を上げる経営手法、いわゆる“チェーンストア理論”が経営の王道となっていますが、ドンキはそれに真っ向から対立する経営といえます。

 チェーンストアでは、本社が一括で仕入れ、コストや品ぞろえをコントロールします。一方、ディスカウントストアやバラエティショップでは、それぞれの店舗の仕入れ担当者が、地域柄や店舗の特徴を出した仕入れをしているケースが多くあります。それをさらに現場の担当者ごとに大きな権限とともに責任も委譲するドンキのシステムは珍しく、非常にユニークだと思います」

 仕入れが現場担当者に任されていることで、誤発注も起こりやすくなり、経営効率の視点ではロスが大きいように思える。

「バランスシート(貸借対照表)などを見ると、在庫が多いのは間違いありません。私がドンキのある店舗を取材した際には、誤発注で大量に売れ残った商品を、なんとか売り切ろうと社員やアルバイトも含め、“しくじり市”として格安で販売したり、ほかの店舗に買い取りを持ちかけるなど強い意気込みで取り組んでいたのが印象的でした。“売り切るんだ”という意思が、各店舗・各担当者に強く刷り込まれていると感じました。そのため、在庫は多いものの、粗利は2割ほど確保しており、経営としてはうまくいっている会社だといえると思います」

『カンブリア宮殿』では、100万人商圏ごとに支社長を立て、それぞれの店舗ごとに成績を競わせている様子が明らかにされた。そのなかで、毎年下位20%は陥落するといい、完全実力主義であることがわかる。

「公開されている情報で平均年収などを見ると、セブン&アイやニトリなどに比べて大きく水をあけられており、決して給与水準が高いわけではありません。ただ、一定の成績を上げている方はそれなりの報酬を受けているようで、信賞必罰という感じで成績に応じた給与をもらっていると感じました」

 店舗ごとに仕入れが異なるため、すぐ近くの店舗で同じ商品を扱っても値段が違うというクレームも耳にする。“反チェーンストア”のデメリットともいえるのではないか。

「確かにそういったクレームもあるかもしれませんが、ほかのチェーン店より高いとか、買った翌日にセールで値段が下がっていたなど、似たようなクレームは常にあるので、経営上、あまり気にする必要のない範囲かと思います」

 大きな裁量が与えられる一方で、誤発注などのミスがあった場合に責任を負わされるのは、従業員によっては負担ではないだろうか。

「確かにそうですが、だからこそ売り切ろうとする姿勢も強いのだと思います。たとえば、『興味期限切れ』などと銘打ち、消費者の興味が薄れている商品を安売りするといった手法を取っている店舗もありました。また、『(この商品は)隣の〇〇店が安いです』というポップを掲示して、近隣の店舗で協力して販売しているケースもあり、驚かされました」

 臨機応変な販売手法を考えることを身につけられるのであれば、ドンキでアルバイトをした学生は社会に出た時に役立ちそうである。ほかに、ドンキのような経営を行っているチェーン店はあるのだろうか。

「見当たりませんね。またドンキは経営手法だけでなく、立地が非常に良く、店舗に適した土地を見つけるのが上手だと感じます。つまり、店舗開発の担当者が優秀だといえます。ドンキは品揃えや価格設定、そして今回のような仕入れ体制が注目されますが、現在ドンキの子会社になっている長崎屋を買収して以降、食品を充実させることで毎日お客さんが来店する“言い訳”をつくっている点こそが注目すべき点だと思います。毎日きちんと集客できているからこそ、大胆な経営ができているのではないでしょうか。

 また、地道にインバウンド(訪日外国人)の集客をはかるなど、確実にお客さんが店舗に足を運ぶように対策しています。店づくりもそうですが、外国でも日本旅行を計画している人に対して、訪日した際に店を訪れるような施策もとっています。そういった地道なアプローチが、経営の地盤を強くしていると思います。

 さらに、食品を選ぶ際のお客さんは1円単位でシビアに価格を見ます。しかし、そこから雑貨などへ目を向けた場合に、BGMや雰囲気を変えたフロアづくりをすることで細かい値段を気にしなくなるように、巧妙な店舗設計がなされています」

 アルバイトも含めた売り場担当者へ大きな権限を委譲するという大胆な経営や、客の目を引く陳列方法などが注目されがちだが、その裏では実に緻密な計算によって成り立つ経営があった。

(文=Business Journal編集部、協力=坂口孝則/未来調達研究所取締役)

提供元・Business Journal

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