公立小学校・中学校教員の残業代なしでの長時間残業や重い業務負荷など過酷な労働環境が問題視されるなか、残業時間に応じた手当を支給する制度の導入が政府内で検討中だと報じられている(3日付「共同通信」記事より)。阿部俊子文部科学相は5日の会見で否定しているが、高知県では2025年度採用の教員採用試験で小学校教諭として合格した280人のうち7割超の204人が辞退するという事態が発生しており(10月29日時点)、抜本的な改革を行わなければ教員不足が深刻化する懸念がある。すでに教員採用の定員割れが生じている自治体もあるが、なり手不足解消のためには、どのような施策が必要なのか。また、残業時間に応じた残業代が支給されるようになれば、教員の負担軽減は進むのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
教員給与特別措置法(給特法)により、公立学校の教員には残業代が支給されず、代わりに月給の4%相当を上乗せして支給する制度「教職調整額」が設けられているが、「定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない」(5月13日放送のNHKニュース番組)と問題視されてきた。
公立学校の教員の労働環境は厳しい。21年に名古屋大学の内田良教授らが全国の公立小学校の教員466名、公立中学校の教員458名を対象に行った調査によれば、1カ月の平均残業時間は100時間以上におよぶという。また連合総研が22年に発表した報告によれば、教員の勤務日の労働時間は平均12時間7分で、週休日の労働時間を合わせると1カ月の労働時間は293時間46分であり、時間外勤務は上限時間の月45時間を上回り、さらに過労死ラインを超えているとしている。
業務を増やすとコストが増えるという意識の欠如
教員の長時間労働は改善されつつあるのか。内田教授はいう。
「文科省や教育委員会の調査データを見る限り、ここ数年、少しずつですが残業時間は減ってはきているものの、焼け石に水といえる状態です。ほんの数年前までは教員の労働時間は事実上ほとんど管理されていませんでしたが、現場ではやっと管理しようという意識が芽生え始めています。そして、部活動の時間や掃除回数、おたよりの配布頻度の削減、ICTの校務支援システム導入による出欠確認や保護者との連絡・情報共有のオンライン化、家庭訪問の廃止、通知表で教員が記入する所見欄の削減など、細かい工夫の積み重ねによって、徐々にではありますが残業時間の削減が進んでいます。
一方で直近の動きとして、逆に長時間労働につながりかねない現象も見られます。たとえば、コロナ禍で週2日に減らされていた掃除の回数を週5日に戻したり、やめていた卒業式の事前練習を10時間はやるようにしたりといった動きが出ています。私の試算では、教員が40人いる学校の場合、掃除を週2日から5日に増やすと一校あたり年間300万円ほどの人件費増につながります。業務を増やすとコストが増えるという当たり前の意識を教育委員会と学校が持たない限り、長時間労働の問題は解消されないでしょう」
こうした長時間残業も影響して、教員のなり手不足が深刻化しつつある。公立学校教員の採用試験の受験者数は年々減少しており、文部科学省の発表によれば、23年度の全国の公立学校教員採用試験の受験者総数は前年比4.2%減の12万1132人、採用者総数は同4.9%増の3万5981人で、倍率は同0.3ポイントダウンの3.4倍で過去最低を更新。受験者数は10年連続の減少、倍率は13年連続のダウンとなっている。
すでに定員割れも起きている。熊本市の25年度採用の市立学校教員採用試験では、採用予定の314人に対して合格者が52人不足した。受験者数が採用予定数を下回る校種もあった。大分県の23年度採用の採用試験では、採用見込み数200人に対し受験者数は198人、合格者数は159人となり、大幅な定員割れとなった。そして高知県では、前述のとおり教員採用試験において小学校教諭として合格した280人のうち7割超の204人が辞退するという事態が起きた。
「同様の事例は全国各地で生じていますが、大きな要因としては長時間労働による教員人気の低迷があげられます。教員確保のため、文科省は教員採用試験の『標準日』を今年度の6月16日から、来年度は民間企業の面接開始より前の5月11日に前倒しすることの検討を各教育委員会に求めたり、教育委員会が県外でも就職説明会を実施して人を呼び込もうとしたりし努力していますが、結局は県をまたいだパイの取り合いに終わってしまい、根本的な問題解決にはつながりません」(内田氏)