正確さが落ちてきた世論調査の原因分析に加え、どこまでそれを起点にどういう選挙報道をしていったらいいのかがメディアの今後の課題です。世論調査の使い方が難しくなりました。

また、メディアの報道では、トランプ氏がハリス氏の弱点を突いた戦略の成功、不満の受け皿になった物価高、バイデン氏の影を消せなかったなど、比較的、短期的な敗因が多く指摘されています。私はそうした短期的な要因に加え、もっと世界を広く見渡した分析が求められていると思います。

ウクライナを侵略するプーチン露大統領、ロシアに傭兵を送る北朝鮮、悲惨なパレスチナ攻撃を繰り返すイスラエル首相、覇権に手を伸ばそうとしている習近平・中国国家主席のような無謀な人物を対決していくには、トランプ氏のような乱暴な悪役が必要だと、米国は判断したのだと思います。

トランプ氏は、議会議事堂の占拠誘導、国家機密文書の無断持ち出し、不倫の口止め料の支払い記録の改ざんなど4つの事件で起訴されています。「大統領経験者が刑事訴追されながら、3度目の大統領選に臨んだことの異様」(読売)、「側近が諫めた暴走するトランプ大統領(第1次政権)」(朝日)、「世界を脅かす大国の身勝手」(日経)など、耳にしたくない人物評ばかりが溢れています。

悪役には悪役がふさわしい。大衆扇動家、傍若無人、敵とみれば罵倒する常習犯の再登場です。ロシア、中国、北朝鮮、中東諸国の悪役を相手にするのは、ハリス氏より、このような人物がふさわしいと、米国の有権者は考えた。そうだとすれば、世界はこれまでの常識が通用しない時代に入ってしまった。日本政治は、「103万円の壁」「裏金批判」などに終始している場合ではないのです。

編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年11月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。