チェコのペトル・パベル大統領は7日、ウクライナに対して数週間以内に80万発の砲弾を追加供給できると発表した。これはチェコ主導のプロジェクトであり、弾薬不足のウクライナを支援する狙いがある。チェコはウクライナ戦争勃発後、他のEU諸国と同様、対ロシア制裁を実施する一方、旧ワルシャワ条約機構時代の武器を提供してきた。同時に、ウクライナからの避難民を積極的に迎え入れてきた。
チェコのフィアラ首相は、「チェコ社会とスロバキア社会の間に緊密なつながりがあることを認識しているし、私たちは協力を継続し、両国関係とプロジェクトの発展に興味を持っている。しかし、いくつかの外交政策問題については大きな意見の相違があるという事実を隠すことができない」と説明し、今回の政府決定への理解を求めている。
一方、スロバキアのロバート・フィコ首相は6日、プラハからの発表に激怒し、「チェコとスロバキアの関係を危険にさらす決定だ。わが国はウクライナ戦争の平和的解決について語っているのに、チェコ政府は戦争の継続に関心がある。わが国のウクライナ政策には変更はない」と強調する一方、「わが国のチェコとの緊密な関係を危険にさらすようなことはしない」と述べ、両国関係の険悪化がエスカレートしないように注意を払っている。
EUのブリュッセルでは、スロバキアがハンガリーのオルバン首相の親ロシア政策に倣い、フィコ首相が第2のオルバンになるのではないかと懸念している。フィコ首相は昨年10月、ウクライナへの軍事支援をやめるという公約を掲げて4度目の政権復帰をした左派指導者だ。
チェコとスロバキア両民族は兄弟関係だったが、民族の気質は異なっている。1989年11月の民主化プロセス(ビロード革命)でもチェコでは民主化後初代大統領となったバーツラフ・ハベル(Vaclav Havel)氏ら知識人を中心とした政治運動が、スロバキアではキリスト信者たちの信教の自由運動がその民主化の核を形成していった。チェコ民族とスロバキア民族の気質の相違が民主化運動でも異なった展開となった(「『プラハの春』50周年を迎えて」2018年8月10日参考)。その違いがウクライナ問題でも表面化しているといえるかもしれない。物事を合理的に政治的に判断する傾向が強いチェコ民族と、情熱的、宗教的気質が強いスロバキア民族では、ウクライナ戦争に対する対応で相違が出てくるのはある意味で当然かもしれない。(「プラハの春」50周年を迎えて 2018年8月10日参考)
ちなみに、今年11月の米大統領選でトランプ氏が再選された場合、米国ファーストを標榜するトランプ政権のウクライナ政策が激変するかもしれない。プーチン大統領のロシアとの関係でも変化が予想される。同じように、ハンガリー・ファースト、スロバキア・ファーストを標榜してきたオルバン首相やフィコ首相の対ウクライナ政策やロシアへの融和政策に変化や修正が出てくることが考えられる。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年3月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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