ロシアの著名な哲学者アレキサンダー・ジプコ氏(Alexander Zipko)は独週刊誌シュピーゲル(2023年7月8日号)とのインタビューの中で、「プーチン氏は生来、自己愛が強い人間だ」と述べる一方、「ロシア国民は強い指導者を願い、その独裁的な指導の下で生きることを願っている」という。同氏によると、「ロシア人は自身で人生を選択しなければならない自由を最も恐れている」というのだ。
現代人は「自由」を愛し、自分の願いを誰からも妨げられずに果たせる無制限な自由を恋い慕う。「自由」という言葉は多分、「歌の世界」でも「文学の世界」でも「愛」という言葉に次いで最も頻繁に飛び出す言葉(ロゴス)ではないか。その「自由」をロシア国民は最も恐れているというのだ。
ロシア国民の心理状況を理解するためには、唯物論世界観の共産主義思想を国是として世界で初めて建設されたソ連共産党政権時代、その後継国ロシアの歴史まで戻らなければならないかもしれない。ロシア人は粛清と圧制下の100年以上の歴史に刻み込まれた生き方から脱皮できないでいるのかもしれない。
自分の意思で人生を決めるような人間が出てくると、最悪の場合、彼らは粛清され、政治犯として収容所に送られていった。ロシア国民はそれを見、聞いてきたので、大多数の国民は「自由」を悪魔の誘惑のように感じてきたのかもしれない。
そのような中でも「自由」を自身の命以上に重視するロシア人も出てきた。最近ではプーチン大統領の批判者、反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏の名を挙げることができるだろう。同氏は2月16日、収監先の刑務所で死去した。47歳だった。明確な死因については不明だ。同氏は昨年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極北の刑務所に移され、厳しい環境の中で獄死した。