雄大な山脈の尾根に300年前から佇む黒い“巨人”がいるという。山の守り神なのか、それとも我々のあずかり知らぬ神秘的な存在なのか。まるで山全体を見渡す監視員であるかのようなその巨人は、いつしか“ダークウォッチャー”と呼ばれるようになった――。
■山麓に佇む謎の巨人“ダークウォッチャー”とは
山麓に佇む謎の巨人“ダークウォッチャー”は、何世紀にもわたってカリフォルニア州を訪れるハイカーを驚かせてきた。その正体やいかに――。
日没時にカリフォルニアのサンタ・ルシア山脈の霞んだ山頂を見上げると、麓を見下ろしている背の高いマントをまとった人物が立っているのを300年も前から多くの人々が目撃している。いったいこの人物は何者なのか。
この夕暮れの人影は“ダークウォッチャー”として知られ、不気味な帽子とマントを身にまとった身長3メートルほどの男性のシルエットが時折、午後の山頂に出現するのである。ダークウォッチャーの目撃報告は300年以上前にさかのぼり、今もなお続いている。
一説によれば、1700年代のスペイン人の入植者たちがダークウォッチャーの名付け親であり、その後のイギリスからの入植者たちもこの地域でダークウォッチャーに見られていると感じていたという。
ダークウォッチャーの存在を強く感じた有名な目撃者の1人は、アメリカ人小説家のジョン・スタインベックであった。代表作に『怒りの葡萄』などを持つノーベル文学賞作家であるスタインベックは、1938年の短編小説『フライト(Flight)』で、登場人物が近くの山の尾根から自分を見つめる黒い人物について描写している。
「しかし、彼はすぐに目をそらした。それはダークウォッチャーの1人だったからだ。ダークウォッチャーが誰なのか、どこに住んでいるのか誰も知らなかったが、彼らを無視し、決して彼らに興味を示さないほうがよいのだ」(『フライト』より)
このダークウォッチャーを目撃したとしても、見て見ぬふりをするのが地元の人々の習わしだったということだろうか。ちなみにスタインベックの息子であるトーマスは、画家のベンジャミン・ブロデと共著で、このダークウォッチャーについての本を出版しているという。都市伝説風でありながらも、300年も前から目撃報告が連綿と続いているこのダークウォッチャーは、それが何であれ確かに存在していることは間違いないのだろう。