幸せの絶頂にあった21歳の新妻が、たった20分間目を離した隙に忽然と消えた――。300人以上の人員が駆り出された徹底的な捜索でも何ひとつ手がかりがつかめなかった未解決事件が「オルガ・モーガー失踪事件」である。
■21歳の新婚妻が忽然と消える
1934年8月、21歳の米国人女性オルガ・モーガーの人生は順風満帆に見えた。彼女は裕福なワイオミング州の石油王カール・モーガーと2週間の嵐のようなロマンスの末に電撃的に結婚したばかりで、2人は熱狂的な恋の最中にあった。
彼らはまたロマンチックな新婚旅行として、ワイオミング州デュボア近くの風光明媚な荒野でのヘラジカのハンティングを予定していた。この時点でオルガにはバラ色の未来が待っているようにしか思えなかったが、間もなく彼女はワイオミング州で最も古く、最も奇妙な未解決事件の当事者になろうとしていたのだった。
幸せなカップルは、結婚式のわずか6日後にワイオミング州北西部・トグウォティー峠にあるキャンプ地に赴いた。
旅の6日目の1934年9月17日、夫婦は本格的なハンティングを前にヘラジカの様子を見るため荒野へと向かった。ハイキング中、カールは妻にそれほど遠くない場所にある小さな尾根を登りたいと言ったのだが、意外なことにオルガは今自分は疲れているので休息したいと夫に告げたのだった。
というのも、身体能力に優れていたオルガはハンティングや釣りを趣味とするアウトドア派であり、見事なアスリート体型をしていて、通常の登山程度ならカールのほうが彼女に追いつくのに四苦八苦するほどだった。
彼女の申し出は少し奇妙であったが、その時はあまり気にせず、カールは1人で尾根を登ることにした。オルガはひとまず岩の上に座って夫の帰りを待つことにしたのだが、彼女に会うのがこれが最後になるとは、当然だがこの時のカールは露ほども思っていなかった。
20分後、カールが同じ場所に戻った時、妻の姿はどこにもなかった。周辺を足早に捜索しても妻の姿は見えず、大声で彼女の名を呼んでも何の応答もなかった。
仕方なくカールはキャンプ地に戻って警察当局に連絡し、その後すぐに大規模な捜索が行われた。300人以上が動員され、警察犬、さらには土地に明るい20人のネイティブアメリカンの協力を仰ぎ、航空機まで出動して徹底的な捜索が行われたが、彼女の足取りを示す痕跡は何も見つからなかった。
彼らがなんとか見つけることができたのは、サンドイッチを3つ入れて持参していた紙袋だけで、食べた形跡はなかった。
身体能力が高いオルガといえども、20分の間にそう遠くまで移動することはできない。警察犬や地元の者でさえ彼女の痕跡を見つけることができないというのは極めて異常な事態である。
夜が近づき急激に冷え込み、薄着であったオルガがどこかで倒れていたなら生き残れないのではないかと心配された。