わずか4年で島中の9割以上がメス化していた!
2008年の調査で、石垣島に生息する「ミナミキチョウ(学名:Eurema hecabe)」に、「wFem」と呼ばれる系統のボルバキアによってメス化が起きていることが明らかになりました。
このwFemを保有しているメスを実験室に持ち帰って飼育したところ、生まれた子供はすべてメスになることが確認されています。
ただし、その時点におけるミナミキチョウのwFem保有率はわずか8%に留まっていました。
そこで研究チームは、「ボルバキアの保有率がここから徐々に上昇していくだろう」と予測し、2015年から石垣島のミナミキチョウの「wFem保有率」と「オスとメスの割合(性比)」を追跡観測することにしました。

チームは2015年から2022年にかけて、石垣島で合計1392匹のミナミキチョウを採集し、オスメスの性比を記録。
その結果、チームも驚くべき現象が起きていました。
なんと2015年から2018年にかけてほぼ1:1だったオスメス比が、2019年から急激にメスに偏り始め、2022年には実に93.1パーセントがメスとなっていたのです。

さらに採集したメスのwFem保有は2008年に8%だったものの、2017年以降にこれまた急激に上昇し始め、2022年にはメスの87%がwFemを保有していたのです。
また、同島の性比がメスに偏り始めた2019年にメスを実験室に持ち帰って飼育した結果、wFemを保有していた個体は確実にメスしか産まないことも確認されました。
これらの結果から、石垣島のミナミキチョウはボルバキア(wFem系統)が広がることによって、性比がメスに大きく偏ったことが実証されました。

今回の調査は、野外においてボルバキアがわずか4年という短期間で宿主の性比を極端にメス化できることを示した初の成果です。
では今後、島中の9割がメスとなってしまったミナミキチョウたちはどんな運命をたどるのでしょうか?
以前、別の研究では、リュウキュウムラサキという蝶が一時、オス殺しをするボルバキアの蔓延によって著しくメスに偏ってしまったものの、数年でオスメスの性比が1:1に戻った前例が知られています。
これはボルバキアが引き起こす生殖操作への抵抗性を宿主が獲得したことで、やられっぱなしだった蝶が性比を回復できたからのです。
そのため、崖っぷちに立たされたミナミキチョウも抵抗性を獲得できれば、性比を回復できるかもしれません。
しかし、研究者らはこのままメス化が進行すれば、オスが完全にいなくなることで、石垣島のミナミキチョウが絶滅に向かう恐れもあるといいます。
チームは石垣島のミナミキチョウとボルバキアの攻防の行く末を見届けるために調査を続ける予定です。
ひとまず、ボルバキアが人をターゲットにする細菌じゃなくて助かったといえるでしょう。
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参考文献
島中がメスばかり -昆虫の細胞内に生息する細菌が宿主の野外性比を急速にメスに偏らせる過程を世界初観測-
元論文
Rapid spread of a vertically transmitted symbiont induces drastic shifts in butterfly sex ratio
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。