ロシア、シベリア北東部のチェルスキー山脈には、「バタガイカ・クレーター」と呼ばれる凹地が存在しています。
ここは人々から「冥界への入口」「地獄の門」とも呼ばれています。
そして今回、ロシアのモスクワ大学(MSU)に所属するアレクサンダー・キジャコフ氏ら研究チームは、現地観測と3D地質モデリングにより、その凹地が毎年約100万m3ものスピードで拡大を続けていると報告しました。
研究の詳細は、2024年4月5日付の学術誌『Geomorphology』に掲載されています。
拡大し続けるロシアの地獄の門
シベリア北東部のチェルスキー山脈にある「バタガイカ・クレーター」は、実際には、何かが衝突してできた「クレーター」ではなく、「サーモカルスト」に分類されます。
このサーモカルストとは、シベリアなどの凍土地帯で、地表付近が融解、凍結を繰り返して作られる凹凸地形のことです。
バタガイカ・クレーターは、シベリアの永久凍土(2年以上にわたり継続して凍っている土壌)が近年の気候変動により融解したことで生じています。
永久凍土の消失によって土地が崩壊したり、亀裂が生じたりすることで引き起こされた「巨大陥没地」なのです。
このバタガイカ・クレーターは1991年に初めて発見されて以来、急速に成長を続けています。
下記の動画では、発見されてから2007年までの様子を確認できます。
そして、「地獄の門」とも呼ばれるこの凹地は、現在でも成長を続けているようです。
今回、キジャコフ氏ら研究チームは、現地観測と3D地質モデリングにより、崩壊の様子を確認することができました。
その研究によると、現在、バタガイカ・クレーターは長さ約1km、幅は800mとのこと。
2014年以来、毎年約100万m3ものスピードで拡大を続けています。
1990年代から考えると、合計3500万m3もの変化があったようです。
こうした永久凍土の溶解は、広大な大地の崩壊と、その表面に存在してきた植物の損失を意味します。
植物には太陽の熱から地面を守る役目もあるため、この植物の損失により、地上はますます熱くなると考えられます。
さらに、永久凍土が溶解することで、その中に保存されていた炭素が大気中に放出され、大気の温暖化を促進するようです。
こうした負のループによって、永久凍土の溶解はますます加速すると考えられており、今後も地獄の門は広がっていくはずです。
参考文献
Earth’s ‘Gateway to Hell’ is growing by 35 million cubic feet each year
元論文
Characterizing Batagay megaslump topography dynamics and matter fluxes at high spatial resolution using a multidisciplinary approach of permafrost field observations, remote sensing and 3D geological modeling
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部