グラッシーなキャビンの快適性は高いが、乗降にひと苦労
ルックスはとてもスタイリッシュだ。MRスポーツの文法に忠実な仕上がりで、NSXにはモダンな香りもたっぷりとある。どこでも多くの視線の集中砲火を浴びる存在になることは、間違いない。ステアリングを握るオーナーとしては、大いにプライドを満足させることだろう。
NSXはとても低いクルマだ。当然だが、乗降性はタイトである。とくに、サイドシル部は幅広いので乗り降りの場合、足の運びや腰の落ち着け方は、ポーズよくすんなり進むという具合にはいかない。かなり足の長い人でもそうなのである。この特徴は、つまりはスーパースポーツカーの勲章だといっていいこともかもしれない。
だが、NSXは、これからのスーパースポーツカーを目指している。これまでのように、スーパースポーツカーは女性を寄せ付けないスパルタンなクルマ、というイメージとは路線を異にしている。NSXのコンセプトである「多くのドライバーに多くの喜びを与える、新時代のスポーツカー」というメッセージを考えると、この乗降性については、もうひとつ冴えたアイデアの工夫がほしい気がする。
パワーステアリングとATを組み込んだモデルを選べば、NSXは女性オーナーにも扱える。きれいにマニキュアを施した細い指でも、華奢なハイヒールを履いた脚線美でも。NSXは決して拒絶はしない。が、彼女たちが優美にカッコよくNSXに乗り降りできるかというと、残念ながらこれはノーと答えざるを得ない。
視界の作り方も、ボクには疑問だ。NSXの前方視界は非常にいい。まさにパノラミックだ。混雑する街や山岳路を走るとき。とても運転しやすい理由になる。ニュルブルクリンクを攻めたときも、車両感覚がよく掴めて走りやすかった。
しかし、アウトバーンでのハイスピードクルージングになると、ガラリと印象が変わった。あまりに前が見えすぎスピード感がものすごく高くなるのだ。とくにメータークラスターのない助手席側のスピード感は、かつて経験したことがないほどだった。必要以上の緊張感、神経の疲労を強いてくる。なにしろNSXは、すぐに200km/hを超え、ちょっと長いストレートだと250km/hさえ簡単にオーバーしてしまう。これだけの超高性能車には、視界やスピード感のあり方はもっと違っていてほしかったと思う。視界の良さはそのままでも、ダッシュボード回りのデザインやボリューム感の演出しだいで答えが違ったのではないか。ついでに、コクピットのデザインはもっとセクシーで華麗であってほしかった。
今後に残る課題はあるが、とにかくNSXは素晴らしくモダンで洗練されたスポーツカーだ。海外でも高い評価を受けるだろう。きっとフェラーリやポルシェにまでもインパクトを与え、進化発展を促す効果を生むに違いない。
※CD誌/1990年9月26日号掲載)
提供元・CAR and DRIVER
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