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地を這うような圧巻のコーナリング。官能的なサウンドも最高
296GTSと296GTB。クルマ好きにとっては実に「引っかかる」字面だ。2.9リッターの6気筒を意味する数字の羅列は名車ディーノ246GTと容易に関連づけることができるし、GTS/GTBといえば1970年代半ばにデビューしたディーノ後継の308GTSと308GTBを思い出す。ちなみに308もまた3リッターの8気筒を意味した。
296GTシリーズはマラネッロにとっても久々のシンプルビューティなミドシップモデルだ。「跳ね馬」が圧倒的に美しかった時代、ディーノ246GTや308GTシリーズに見劣りしないばかりか、かの250LMさえ彷彿とさせる。
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296GTシリーズはプラグインハイブリッド(PHEV)の2シーターミッドシップカーだ。新開発120度V6ツインターボに8速DCT+電気モーターを加え、比較的容量の大きなバッテリーを重心近くに積んでいる。
パフォーマンス面でのポイントは(バッテリー分だけ重くなったとはいえ)パワーウェイトレシオが1.77kg/psとF8トリビュートの1.85を上回ったこと、ホイールベースがF8より50mm短いこと。そして 「アセット・フィオラノ」というパッケージオプションの存在だ。アセット・フィオラノは軽量性に徹底的にこだわって、さらに絞り上げ、ダンパーをサーキット向きの専用セッティングとし、特別な空力デバイスを装備している。タイヤはミシュラン・スポーツカップ2Rとトラック向きだ。
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街で見かける多くの296GTシリーズは、GTBに限らずGTSも、このパッケージを選んでいるようだ。なぜすぐにわかるかというと、写真のようにフロントノーズとリアにボディカラーとは別の、ハイライトが際立つカラーを選ぶことができるから。このリバリーパターンを手に入れたいからアセット・フィオラノを選んだというカスタマーは少なくない。
腰を起点に旋回する感覚が新鮮。心地よいフィット感を感じるハンドリングがいい
初めて296をドライブしたとき、アセット・フィオラノでサーキット走行を楽しんだ。そのときいきなり感動したポイントが、それまでのV8ミドシップカーと比べて「クルマがとても小さい」と感じた点だった。
物理的には、先代に当たる458〜F8のV8ミッドシップ世代比でホイールベースが短くなっている。だが寸法差よりも強く感じるのは、296にはドライバーの腰周辺にすべての重量が集まっている感覚がはっきりとある、ということ。そしてそこを起点に安定感抜群な独楽が回っているようなハンドリングが楽しめる。
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最近のフェラーリは、たとえV8モデルであっても、ちょっとルーズなスーツを着ているような印象があった。296GTシリーズは、GTSであってもピタっとフィットした感覚がある。中でもフロントアクスルの手応えが抜群だ。レスポンスよく、しかも自然に行きたい方向へとノーズが向きを変え、路面との関係はタイトなままで安心感たっぷりに旋回する。アンダーステアを徹底的に排除するという思想のシャシー制御が面白いようにキマる。それでいてドライバーには「クルマに操られている」という感覚がまるでない。どこまでも自分のスキルがそうさせていると、気持ちよく錯覚できるのだ。それが証拠にひとたびマネッティーノをオフにすると、いとも簡単にオーバーステアとなって(それこそ技量さえあれば)迫力の走りを楽しむことだってできる。
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296シリーズにおいて秀逸なのは、やはり、電気モーターとエンジンのコラボレーションだ。制御が最大の肝となるわけだが、電気モーターの恩恵を確かに感じさせつつ、実に嫌味なくまとめられている。ターボチャージャーの存在まで薄められていて、まるでいきなりビッグトルクを供出する大排気量NAエンジンのようなたくましさがある。エンジンの回転やギアの段数に応じてモーターのトルク特性を微妙に変化させ、その瞬間瞬間に最適な出力を与えるよう緻密に制御されているからだ。シャシー&サスペンションおよびパワートレーンの制御系は明らかにSF90ストラダーレよりも洗練されていた。
アセット・フィオラノの硬さはスタンダードのレースモード程度に固定されている。街中ではやや硬いと感じたものの、郊外路で速度を上げると十分にしなやか。スタンダードなら、ドライブモードごとにバンピーセットをチョイスできる。ただしサーキットなど滅多に走らないというドライバーは、スタンダードモデルのほうがいいと思う。フロントリフターも装備されることだし!
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V6エンジンのサウンドは、同門のV12を除けば、最近では最も官能的だ。室内で聞く限り、V8ツインターボよりもずっとクルマ好きを魅了する音質で、回転を上げていくにつれてビブラートがかかる。ただし、周囲の人を驚かせるような爆音ではない。
296は830psのRWDであることなどまるで気にすることなく攻めていける。ステアリング操作が遅いと、ノーズが思った以上に内側へと向く印象が強まるので、リズムよく車体と協調しなければならない。それさえ心がければ劇的な速さでコーナーを次から次へとクリアする。この走りは本当に新しい。滑らかに操れるよう工夫するうちに自分の運転も上手くなるはずだと確信した。 そして、何より街中ではモーター駆動のEVになる。この静けさがまたうれしい。