ガラケーの全盛期には、連絡先交換やデータ交換などに頻繁に使われていた携帯電話の「赤外線通信」。多くの携帯電話の上部などに赤外線通信のためのポートがついており、ポート同士を近づけることで連絡先交換が簡単に可能でした。
しかし、近年では「携帯電話の赤外線通信」を使う場面は極めて減ったのではないでしょうか。なぜ携帯電話の赤外線通信はあまり見かけることがなくなったのか、改めて見ていきましょう。
結論から言えば「赤外線通信はBluetoothに代替され、なおかつiPhoneに搭載されていない」のが見かけなくなった理由ですが、近年は別の角度から赤外線通信の価値が見直され始めてもいます。
携帯電話における「赤外線通信」の従来の役割
赤外線通信のもっとも一般的な用途は、携帯電話間でのデータ交換でした。主な用途は以下の通り。
・アドレス帳の交換
・写真の転送
・小さなデータファイルを直接やり取りすることも可能
赤外線のポートの場所は機種によって異なりますが、大抵はディスプレイの先端部分や、裏側、本体のサイド部分など。この発信部と受光部を、デバイス同士を向かい合わせて近づけることで通信が可能でした。いわばガラケー時代において、赤外線通信は「スマホにおけるAirDrop」のような役割を果たしていたと言えるでしょう。
直進性が強い赤外線通信の弱点
赤外線通信は直進性が強く、デバイス同士を近づけ、向かい合わせる必要があるためやや使い勝手が悪い側面もありました。またやり取りできるデータ量は大きくなく、通信速度も2024年現在から振り返ると決して高速なものではありませんでした。
赤外線通信通信の高速化の研究も00年代には活発化
もっとも赤外線通信の高速化に関する研究は、00年代にはかなり活発化してもいました。たとえば2006年頃には早稲田大学やシャープなどが中心となって、赤外線レーザーダイオードを使用した高速赤外線通信ハードウェア「UFIR」(Ultra-Fast Infra Red)と、それに対応する高速通信プロトコル「IrBurst」を発表。
さらに2009年にはKDDIを中心とする研究グループが、赤外線LEDを利用して最大1Gbpsの通信を可能にする「Giga-IR」を開発。従来の赤外線通信と比較して、はるかに大容量のデータ転送が可能になり、高解像度の画像や動画のような大容量データの高速転送や、モバイルデバイス間でのより迅速なデータ交換などに期待が寄せられました。
しかし、これらの技術はその革新性ほどには「市場には浸透しなかった」と言えます。その最大の要因が、スマホの普及。赤外線通信は最終的にBluetoothやWi-Fiなどの無線通信技術に市場を奪われることに。
iPhoneには搭載されなかった「赤外線」
スマホの普及によって赤外線通信が下火になったのは、「国内シェアが大きいiPhoneに赤外線通信が搭載されなかったこと」に大きな要因があります。代わりに、iPhoneにはBluetooth機能が搭載されました。Bluetoothは、赤外線通信と比べて通信距離が長く、障害物があっても通信が途切れにくいという利点があります。また、Bluetoothは多対多の通信が可能であり、複数のデバイス間でデータのやり取りができます。
スマホにおけるAirDropやQRコードの普及の影響も
アプリの機能やQRコードを介したデータ交換が一般的になったことも、赤外線通信の必要性を低下させる要因でした。これらの要因が重なり、赤外線通信は徐々に使われなくなっていきました。ただし、一部のスマートフォンでは、家電製品のリモコンとして利用するために赤外線機能が復活しています