土星の環は1610年に、イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイ(1564〜1642)によって発見されました。
太陽系内では他に木星や天王星、海王星がリングを持ちますが、どれも形が不完全だったり細かったりして、土星ほど完全ではなりません。
天体観測においても土星の環は大きな注目ポイントとなっています。
しかし来たる2025年に、土星の環は地球から見えなくなるというのです。
一体なぜ土星の環は消えるのでしょうか?
土星の環は厚みが異様に薄い
土星の環は当然ながら一枚の巨大な岩板などではありません。
実際は数センチ〜数メートル程の氷や塵が無数に集まったもので、それらが土星のまわりを高速で公転することで環を形成しています。
また土星の環はA・B・C〜というように数種類の環に分かれており、外側のA環とB環は地球から小望遠鏡でも観測できます。
A環とB環の隙間は「カッシーニの間隙」と呼ばれています。
さらにB環の内側にはC環とD環があり、反対にA環の外側にはF・G・E環と非常に薄くて不完全なリングが探査機による観測で確認されています。
土星の環は非常に巨大で、最も大きなB環の幅は約2万5000キロメートル、次に大きなA環の幅は約1万5000キロメートルに達します。
このように天体としては非常に小さい塊が広範囲に広がって形成されているのが土星の環の正体ですが、その一方で、土星の環は厚みがきわめて薄いという特徴があります。
土星の環の厚さは、せいぜいが1キロメートル程しかありません。(近年の研究では、わずか10メートルという報告もある)
この「厚みの薄さ」という特徴が土星の環が見えなくなることに大きく寄与するのです。
どのように土星の環は消えるのか?
土星の自転軸は、その公転軌道面から垂直方向に約26.7度傾いています。
土星の環は赤道面に位置しているので、同じく公転軌道面から約26.7度傾いています。
土星はこの状態で太陽のまわりを約30年かけて一周しますが、このとき、地球から見た土星の環は公転するにつれて傾きが大きくなったり小さくなったりします。
具体的には、地球から見て「環の傾きが水平→環の傾きが北に最大→環の傾きが水平→環の傾きが南に最大」を約30年の間に繰り返します。
そしてこの環の傾きが水平になったとき、厚みがきわめて薄いせいで、地球からは土星の環が消失してしまったように見えるのです。
つまり、土星の環が煙のように消えてしまうのではなく、地球との位置関係のせいで一時的に観測できなくなります。
だいたい環の傾きが水平になる前後の数日間は地球から見えなくなるという。
この現象を「土星の環の消失」といいます。
また上の図を見れば分かるように、環の傾きは30年の公転期間の間に2回水平になるので、地球からすると約15年周期で土星の環の消失が起こるわけです。
次に消失が起こるのは2025年!
ここ数十年の観測では、1995年に地球から見て土星の環が水平になり一時的に見えなくなりました。その後、傾きは徐々に大きくなり、2002年に最大傾斜角に到達。
それから再び傾きは小さくなっていき、2009年に土星の環の消失が見られています。
そして次に土星の環の消失が起こるのは2025年と予測されているのです。
2023年現在、土星の輪は地球に対して約9°の角度で傾いており、徐々に傾きが小さくなっています。
2024年中には約3.7°になり、2025年に土星の輪は傾斜ゼロとなって地球から見えなくなるでしょう。
専門家によると、土星の輪が傾斜ゼロとなるのは具体的に「2025年3月23日頃」と推定されています。
ちなみに土星の環が見えなくなることは、観測者にとって新たなチャンスでもあります。
例えば、普段は土星の環に隠れている衛星が見つけやすくなったり、太陽光が環の真横から当たることで、土星の縦方向の構造が明瞭に観測しやすくなるのです。
加えて、上手くいけば環のない裸の土星も観測できるでしょう。
15年に一度のチャンスなので、2025年が来るまでに土星を観測できる望遠鏡を準備しておくといいかもしれません。
土星の環は2025年3月の傾斜ゼロを過ぎると、傾きを徐々に大きくしていき、2032年頃に最大傾斜角27°に達するとのことです。
”土星の輪”は崩壊した月「クリサリス」から形成された!?
参考文献
Saturn’s Rings Will Disappear From View In 2025
Photograph Saturn’s rings before they disappear from view
「土星の環の消失現象」の解説(国立天文台)