宇宙から地球に、ごく短い時間の電波が届くことがあります。
これは「高速電波バースト(FRB:fast radio burst)」と呼ばれており、その発生源や発生機構は、現在でも完全には解明されていません。
天体の合体や崩壊が原因だという説が主流ですが、宇宙人の活動の可能性なども検討されているようです。
そして最近、オーストラリアのマッコーリー大学((Macquarie University)に所属する天文学者スチュアート・ライダー氏ら研究チームによって、観測史上最遠の高速電波バーストが報告されました。
遠い宇宙で生じたその一瞬の電波信号は、80億年かけて地球に到着したのです。
研究の詳細は、2023年10月19日付の科学誌『Science』に掲載されました。
わずか数ミリ秒の「高速電波バースト」
電波望遠鏡は、遠方の宇宙から放たれた電波を受信し、非常に遠くの天体を観測することができます。
例えば、はるか遠くに存在する銀河や他の天体は、持続的に一定の電波を放射しています。
そのため、その発生源にターゲットを定めて長期的に観測していくことで、詳細な情報を得ることができます。
しかし、これら電波望遠鏡は、時に数百ナノ秒~数ミリ秒というごく短い突発的な電磁波パルスを捉えることがあります。
これは「高速電波バースト(FRB:fast radio burst)」と呼ばれており、わずか数ミリ秒で太陽が3日間で放射するエネルギーを放出しています。
もちろん、数十億光年という遠く離れた位置から届いているため、地球に届く電波強度は非常に小さいものとなっています。
2007年に最初の高速電波バーストが発見されて以来、数多くの例が観測されており、宇宙では毎日何千回もの高速電波バーストが生じているとさえ言われています。
しかし、高速電波バーストは銀河や他の天体とは異なり、非常に短い時間でしか放射されないため、未だにその発生源や発生メカニズムについて完全には解明されていません。
そのため高速電波バーストの解明は、天文学者たちが抱える使命の1つだと言えます。
そしてこの度、前例のないほど強力な高速電波バーストの観測結果が報告されました。
80億光年の彼方から届いた「観測史上最遠」の高速電波バースト
最近、ライダー氏ら研究チームによって報告された高速電波バーストは、「FRB 20220610A」と名付けられました。
これは2022年6月に、西オーストラリアにある電波望遠鏡「ASKAP」によって観測されたものです。
研究チームによると、この高速電波バーストは、たったの1ミリ秒しか続きませんでしたが、その間に放出されたエネルギーは、太陽の全放射エネルギーの30年間分に相当するようです。
しかもチームは、その発生位置を特定することができました。
なんとその一瞬のパルスは、80億光年も離れた位置から届いていたのです。
これほど遠い高速電波バーストが観測されたのは初めてのことです。
そしてライダー氏は、周囲の状況から、この高速電波バーストが「2つまたは3つの銀河が合体したときに生じた」と考えています。
もちろん現段階では、原因や発生メカニズムが確定されたわけではありません。
それでも、今後も高速電波バーストの観測と研究を続けるなら、いつかその構造を完全に解明できるかもしれませんね。
また、高速電波バーストは宇宙を駆け抜ける際に、銀河間のプラズマの存在を知らせてくれます。
研究チームは、この性質を利用して、将来的に「宇宙の質量を推定するのにも役立てたい」とも考えています。
地球へと届く「一瞬の電波信号」は、私たちが理解を深めるための「宇宙からのメッセージ」なのです。
参考文献
8 billion-year-old radio signal found by astronomers — and experts know ‘precisely’ where it came from
Australian scientists detect most distant fast radio burst ever discovered
元論文
A luminous fast radio burst that probes the Universe at redshift 1