3人の学生チームが解読に成功し、70万ドルの賞金を獲得する

シールズ氏は20年にわたるヘルクラネウムの巻物の解読研究を続けてきました。

それらの研究からすると、炭化したヘルクラネウムの巻物は、次のように解読できます。

まず巻物を3Dスキャンし、巻物各層の3D形状を識別します。

そしてその3Dデータを1枚の紙のように引き延ばした後、AIを利用して、巻物表面のインクの形状を画像化するのです。

それでもシールズ氏らの小さな研究チームでは、膨大な解読を行うのに限界がありました。

そこで、賞金付きの「ヴェスヴィオ・チャレンジ」が開催されることになり、2つの巻物を構成する数千枚の3D画像と、インクの文字を読み取るためのAIプログラムが公開されました。

改良されたAIにより、ヘルクラネウムの巻物の一部の解読に成功
改良されたAIにより、ヘルクラネウムの巻物の一部の解読に成功 / Credit:Vesuvius Challenge

多くのチャレンジャーたちは、既存のツールやモデルを改良したり、もっと良いアイデアを採用したりして、ヘルクラネウムの巻物の解読に取り組んだのです。

その結果、2024年2月5日には、エジプト、スイス、アメリカの学生3人からなるチームが、2023年度大賞を受賞し、70万ドル(約1億400万円)を獲得ました。

3人の学生チームが解読に成功。70万ドルを獲得
3人の学生チームが解読に成功。70万ドルを獲得 / Credit:Vesuvius Challenge

彼らは、比類のないインク検出技術を構築し、巻物全体の約5%に相当する15段以上の文章(数百の単語)を解読したのです。

では、解読された「ヘルクラネウムの巻物」には、いったいどんなことが書かれていたのでしょうか。

ヘルクラネウムの巻物の内容とは!?「哲学論文」それとも「2000年前のブログ記事」?

解読された「ヘルクラネウムの巻物」は、エピクロス主義に関連したものであり、その著者は、エピクロスの信奉者であり、巻物が発見された書庫で働いていた哲学者フィロデモスだと考えられています。

エピクロス主義とは、ギリシャ哲学者エピクロスに影響を受けた学派であり、幸福の追求を自分の主義(快楽主義)としていました。

心の平安や精神的な快楽を追求し、当時の禁欲的な考えと対立していたようです。

ヘルクラネウムの巻物の5%の解読に成功
ヘルクラネウムの巻物の5%の解読に成功 / Credit:Vesuvius Challenge

そして実際に解読された巻物では、「食料などの品物の入手可能性が、喜びにどのような影響を与えるのか」といったトピックが扱われています。

例えば、著者は「大量に手に入る物よりも、少量しか手に入らない物の方が、喜びは大きいのか?」などと論じています。

また、音楽が聴く人に与える影響についても書かれており、そのことを食べ物や飲み物が提供する楽しみと比較しているようです。

もちろん、これらは巻物に記された内容のたった5%に過ぎないため、これだけで巻物全体の価値を測ることはできません。

ヴェスヴィオ・チャレンジの次の目標は、2024年の年末までに巻物の85%を解読することであり、今後の進展も楽しみにできます。

ちなみに、ヴェスヴィオ・チャレンジのサイトでは、今回の結果について、次のようにコメントされています。

学者たちは、これを哲学論文と呼ぶかもしれません。

しかし、この文章は私たちにとってなじみのあるものです。

私たちが最初に発見した文章は、人生を楽しむ方法について記した2000年前のブログ記事であるような気がしてなりません

ヘルクラネウム・パピルスの内容は、2000年前のブログ記事のようだった!?
ヘルクラネウム・パピルスの内容は、2000年前のブログ記事のようだった!? / Credit:Canva

「長年秘められてきた古代文書が、実は2000年前のブログ記事のような内容だった」という表現は、現代のあらゆるメディアが将来どのように扱われるかを想像させます。

現代には、様々な「記録」が存在していますね。

ネットにあふれる様々なブログ記事や、私たちの手帳に記された手書きの日記、SNSに投降した動画やハードディスクに収まった写真などです。

それは現代ではありふれたものの一部ですが、はるか遠い未来にまで残ったなら、きっとヘルクラネウムの巻物のように当時の様子を知るための貴重な資料として大切に扱われるのでしょう。

現代のブログ記事もまた、将来において、「どこかなじみ深い」古代文書となるかもしれません。

参考文献

First passages of rolled-up Herculaneum scroll revealed

Vesuvius Challenge 2023 Grand Prize awarded: we can read the first scroll!

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。