欧米諸国のウクライナへの武器供与がキーウが望むようにスムーズにいかないのは、第2次世界大戦後、西側諸国では軍需産業が武器の生産を縮小していることもあるが、それ以上にロシアがウクライナ軍との戦いで守勢に追い込まれ、敗北が回避できないという状況になった場合、モスクワが核兵器を導入する危険性が出てくるからだ。ウクライナ戦争敗北後のプーチン政権のその後の展開が読めないため、米国を含む西側諸国は恐れを感じ出してきたというわけだ。

一方、ウクライナの敗北の場合、NATOは対ロシア国境への防衛強化に乗り出し、防備を強化することになる。すなわち、西側にとって選択の問題になる。NATO加盟国の国境警備を一層強化するか、ロシアとの全面衝突の危険を甘受するかだ。ドイチェ・ヴェレによると、欧米諸国は前者に傾いてきているというわけだ。

ところで、ロシアのプーチン大統領が2022年2月24日、ウクライナに侵攻したが、その日を期して、欧米メディアは「ウクライナ戦争2年目」の総括を特集しているが、2年目は欧米諸国には当てはまるが、ウクライナ国民にとって今年は2014年から10年目にあたる年だ。欧米諸国にとって、ロシアの2022年2月24日のウクライナ侵攻はサプライズだったかもしれないが、プーチン大統領がクリミア半島の併合後はウクライナ東部・南部だけではなく、オデーサやキーウをも占領しようとしていることをウクライナ側は知っていた。戦いは2014年から続いてきているのだ。欧米メディアは「ウクライナ戦争2年目」ではなく、「ウクライナ戦争10年目」の特集を張るべきだったのだ。

第2次世界大戦後、70年以上の戦争のない平和の時を享受してきた欧州諸国では、軍事産業は縮小し、最新兵器の開発には投資してきたが、戦車や装甲車、弾薬やミサイルといった通常兵器の生産は限定されてきた。だから、ウクライナに武器を提供するといっても即大量に戦車やミサイルを生産できる体制はない。ウクライナと武器の生産で合意して、武器の大量生産に乗り出しても戦争がいつまで続くか不明のため、軍需産業に投資する企業は出てこない。例外は、米国だけだ。

ちなみに、ロシアは現在戦時経済体制を敷いている。国内総生産(GDP)比6%の国防費を支出している。一方、NATO加盟国は軍事費をGDP比2%を目標としている。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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