黒田・前総裁は「消費者物価2%、2年、通貨供給量2倍」を目標に掲げたのに、いつまで経っても実現しませんでした。物価が上がりだしたのは、コロナ危機、ウクライナ危機による供給網の断絶、原油価格の高騰、円安による輸入物価の上昇という外的要因のためです。国内要因に絞った「2%、2年、2倍」という黒田方程式は空回りを続けてきました。
日銀にとって、思い寄らない要因で消費者物価が上がりだしたことは、日銀の「市場を見る目」の衰えを示しています。そのような日銀に「市場との対話」を求めても虚しいのです。物価が「黒田方程式」のようにならない。「市場を見る目」が狂っているのです。
新聞の社説はどれも、日銀に「市場との対話」を求めています。もちろん対話を通じて、異次元金融緩和・財政膨張策という乱暴な政策から軟着陸に成功することを祈ります。問題は、金融統制を続けてきた日銀にそのような能力があるかどうかなのです。
「日銀は市場との対話を丁寧に/丹念な分析で政策変更の時期を判断してもらいたい」(読売、24日)は、もっともらしい主張ではあっても、今の日銀には難しい注文でしょう。社説ならそのことに触れてほしい。「日銀と市場との対話は本当に十分だったといえるのか」(日経、10日)も同様です。「こういう時代だからこそ、市場関係者は自らの判断力を磨け」というべきです。
「金融市場の波乱/丁寧に説明し、不透明感を払って欲しい」(朝日、7日)、「市場の警鐘に耳を傾けたい/市場に目配りした手綱さばきが求められる」(毎日、8日)も同じです。このような主張に終始する社説から卒業してほしい。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年8月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。