幾何学模様は「トリップ中に見た幻覚」の表現?
研究者らが比較対象としたのは、南米コロンビアの熱帯雨林で暮らしているツカノ族(Tucano people)が大昔に残した岩絵です。
ツカノ族は現在もコロンビアで生活していますが、数千年前から幻覚作用のあるアヤワスカ(Ayahuasca)を使った儀式を続けてきました。
アヤワスカは南米の広い地域で伝統的に用いられてきた幻覚剤で、アマゾン川流域に自生するキントラノオ科のつる植物を原料としています。
それを飲むと嘔吐をともなう強力な幻覚作用が得られるそうで、シャーマニズムの儀式や民間療法において習慣的に使われてきました。
その儀式の中でツカノ族が残したとされる岩絵がこちらです。
これらは神々や宇宙との交信を目的とした儀式を表現したものとされており、これまでの研究で、アヤワスカの強力な幻覚作用で見られたサイケデリックな視覚を再現したものであることが示されています。
これをトロ・ムエルトに見られるダンザンテの幾何学模様と見比べると、似ている印象がないでしょうか?
より分かりやすくするために、また別のダンザンテの岩絵を見てみましょう。
これを見ると、ツカノ族が残した絵とそっくりな幾何学模様が描かれているのがわかります。
この結果を受けて、研究者らはダンザンテの幾何学模様も幻覚剤によって生じたサイケデリックな視覚を表現したものである可能性が高いと結論しました。
また研究者らは、ダンザンテに見られる幾何学模様について、幻覚剤のトリップ中に見られた視覚表現と同時に、儀式中に演奏された音楽を視覚化したものとも考えられると話しています。
これだけ視覚表現が似ているとなると、ダンザンテを描いた古代人もツカノ族と同じアヤワスカを使っていたのかもしれません。
参考文献
This 2,000-Year-Old Peruvian Rock Art May Depict Psychedelic Music
Carvings in southern Peru may have been inspired by people singing while hallucinating
元論文
Dances with Zigzags in Toro Muerto, Peru: Geometric Petroglyphs as (Possible) Embodiments of Songs
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。