東京・渋谷に多くの人が仮装して集まるハロウィン。誰が仕掛けたわけでもなく、特別なイベントがあるわけでもないのに、10年ほど前から何万人も訪れるようになった。主催者がいないことから無法地帯と化し、毎年犯罪も多発。数年前から渋谷区では、ハロウィンに渋谷駅周辺に来ないように呼びかけてきた。今年も「渋谷は、ハロウィーンをお休みします。」とのキャッチコピーを前面に打ち出し、渋谷に集まろうとする人たちを牽制している。それでも、人は集まるのか。また、渋谷を避けた人は、どこへ行くのか。
今や世界で一番ハロウィンを楽しんでいるといわれる日本。毎年10月に入る前後から、さまざまな小売店でハロウィングッズが販売され始める。仮装道具や、家庭・店舗などを飾るグッズ、パーティー用の小道具など、100円ショップやインターネットショップもハロウィン用の商品であふれかえっている。
ハロウィンの始まりについては諸説あるが、アイルランドやウェールズ、イングランドで似たような祭りがあり、それらの地方からアメリカに移り住んだ人たちによって、現在の形に近い祭りが始められたといわれている。子供たちが魔女やお化けの仮装をして近所の家々を練り歩き、お菓子をねだるという奇祭だが、最近の日本では大人が仮装するパーティーとなっているきらいがある。
日本国内でハロウィンが祝われるようになったのは40年ほど前といわれているが、2012年頃から渋谷のスクランブル交差点付近で仮装した群衆が注目されるようになった。そもそも渋谷に人が集まり大騒ぎするようになったきっかけは、2002年のサッカー日韓ワールドカップで、日本代表が勝った際にスクランブル交差点で行き交う人々がハイタッチするなど、若者の交流拠点のような状況になったことにあると指摘されている。
その後、各地でハロウィンの祭りが定着してきたが、仮装して街中を歩く人がテレビ番組などで取り上げられると、仮装する仲間に入りたい人たちと、仮装している人を見たい人たちが集まるようになった。ハロウィンなどの祭り文化を研究している専門家によると、2011年の東日本大震災がひとつの転換点だと語る。
「東日本大震災が発生した後、全国的に鬱屈した空気が広がりました。各地で祭りや大規模なイベントが中止になり、楽しそうなパーティーを行うと“不謹慎だ”などと叩かれる状況でした。翌年になり、少しずつ日常が取り戻されていくなかで、大きな規模のハロウィンイベントも各地で開催されました。渋谷の場合は、誰が主催するわけでもなく、特別なイベントがあったわけでもありませんが、仮装している人を写真に撮ってSNSに上げたり、雑誌やウェブサイトが紹介したことで話題になりました。その後、テレビ番組でも取り上げられると、爆発的に人が集まるようになったのです」
渋谷にとって迷惑でしかないハロウィン
自然発生的にハロウィンパーティー会場となってしまった渋谷は、主催者がいないことで、さまざまな問題が湧き上がった。たとえば、渋谷周辺の商業施設や飲食店で、仮装のためにトイレを長時間占拠する人が続出し、“仮装禁止”の店が相次いだ。その後、ハロウィンの時期には着替え・仮装のためのスペースがつくられるようになり、“トイレ占拠問題”は落ち着いた。だが、加速度的に人が集まるようになり、トラブルも頻発するようになる。
スクランブル交差点では痴漢やスリなどの犯罪行為が多発。酒に酔った人が器物を壊したり、喧嘩するといったトラブルも頻繁に発生した。2018年には、酒に酔った大勢の若者がトラックをひっくり返す事件が起き、警察は監視カメラを追って犯人たちを逮捕する執念をみせている。この年は暴行や痴漢などで逮捕者が多く出た。
あまりにも多くのトラブル、犯罪が発生するほか、大量のゴミが散乱するといった問題もひどいため、渋谷区は2019年から条例で渋谷駅周辺での路上飲酒を禁止。さらに今年10月からは通年で路上飲酒を禁止し、規制を強めている。また、今年は渋谷区長と新宿区長がそろって会見を開き、「ハロウィン目的で街に来ないでほしい」と異例の呼びかけを行った。
10月31日の渋谷駅周辺では、営業を取りやめる店が続出している。スクランブル交差点にほど近いセンター街の中でも、同日は閉店してトラブルを未然に防止しようとしている店舗が少なくない。センター街にあるカフェバーの店主は、Business Journal編集部の取材に、こう答えた。
「ハロウィン当日や直前の週末は、渋谷に多くの人があふれますが、実はほとんどの飲食店が恩恵にあずかっていません。仮装して街中を練り歩くだけで、ほとんどお金を落としていないのが実情です。実際に、店の前を多くの人が通りすぎますが、全然お客さんは入ってこないので、ハロウィンは商店街にとって迷惑でしかないですね。酒を飲んで暴れる人も毎年いるので、経済効果はマイナスだと思います。うちも今年は営業しません」
迷惑がられ、区長や商店街などからも「来ないで」といわれても、一定数の仮装好きな人々は渋谷を訪れるだろう。一方で、渋谷を訪れることをやめた人たちは、どこに流れていくのだろうか。
周辺の自治体では、渋谷から人が流れてくることを警戒しているところもある。実際に昨年、池袋や品川、有楽町といった山手線で渋谷とつながる繁華街の駅では、ハロウィン当日に人出が前年比で大きく増える傾向があった。
今年、東京の街ではハロウィン当日の夜の天候も良く、仮装して街中を歩くことを楽しみにしている人も少なくないだろう。くれぐれもトラブルを起こさないように楽しんでもらいたい。
(文=Business Journal編集部)
提供元・Business Journal
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