宇宙に浮かぶ「神の手」が新たに撮影されました。
この天体は地球から約1300光年離れた場所にある彗星状グロビュール「CG4」という暗黒星雲です。
その形が雲間から現れた巨大な手のように見えることから「神の手(God’s Hand)」と呼ばれています。
今回の画像は南米チリのセロ・トロロ汎米天文台(CTIO)にある口径4mのビクター M. ブランコ望遠鏡により、かつてない鮮明度で撮影されました。
渦巻銀河に手を伸ばす「神の手」
彗星状グロビュールは「ボック・グロビュール」と呼ばれる暗黒星雲の一種です。
ボック・グロビュールは、宇宙の塵やガスが高濃度に密集した領域であり、しばしば星形成が起きる場所として知られます。
その亜種として分類される「彗星状グロビュール」は、名前とは裏腹に、彗星とは何の関係もありません。
ただ暗黒星雲の形が彗星のように長い尾を伸ばしているように見えることからそう呼ばれているだけです。
彗星状グロビュール「CG4」は1976年に初めて発見されましたが、暗黒星雲に特有の極端な暗さからほとんど鮮明に見ることができずにいました。
その一方で、ボック・グロビュールは近くにある大質量星から放射された強力な紫外線によって星雲内の水素が電離(イオン化)しているため、この波長を捉えるカメラなら撮影することが可能です。(今回の撮影では赤く着色されている)
研究チームは今回、その光を捉えることで「神の手(=CG4)」をかつてない鮮明度で撮影することに成功しました。
撮影には、セロ・トロロ汎米天文台のビクター M. ブランコ望遠鏡に設置された観測装置「ダークエネルギーカメラ(DECam)」を用いています。
ダークエネルギーカメラはその名の通り、宇宙空間の約70%を占めるとされている正体不明の暗黒エネルギーの解明を目的として開発された観測装置です。
このカメラを使用すれば、イオン化した水素が放出する微弱な光を検出することができます。
こうして撮影された「神の手」がこちらです。
チームによると、「神の手」は手のように見える先端の部分が直径1.5光年あり、彗星の尾のように伸びる尾部の長さが8光年あるといいます。
また画像中には、手のすぐ先に円盤状に光る天体が見えると思います。
これは「ESO 257-19」と呼ばれる渦巻銀河です。
「神の手」が渦巻銀河を掴み取ろうとする構図に見えますが、実際には両者がぶつかる心配はありません。
というのも、ESO 257-19は「神の手」から1億光年以上も離れた場所にあり、横から撮るとたまたまこの配置に見えているだけだからです。
例えるなら、エッフェル塔を支えるような構図で撮る観光客の写真のようなものでしょう。
それから「神の手」の先端には、恒星の進化の初期段階にある「若い星状天体(Young Stellar Object:YSO)」も見られたとのことです(以下の1と2)。
その一方で、チームはまだ「神の手」がどのように形成されたのかを解明できていません。
これまでのところ、近くの大質量星から放たれる恒星風によって形成された説や、星が死ぬときの超新星爆発によって作られた説が提唱されていますが、いずれも確かな証拠は得られていません。
しかし今回のような驚くべき鮮明度で天体を観察することで、その誕生の秘密が明らかにできると期待されています。
JWSTが有名な「馬頭星雲」の頭頂部を”どアップ”で撮影!かつてない鮮明度!
参考文献
Dark Energy Camera Spies Cometary Globule Reaching for the Stars
‘God’s Hand’ interstellar cloud reaches for the stars in new Dark Energy Camera image (video)
Space photo of the week: ‘God’s Hand’ leaves astronomers scratching their heads
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部