リコーは12日、2025年3月までに2000人の人員削減を行うと発表した。同社は25年3月期連結決算の当期利益で前期比8.7%増となる480億円を見込んでいるが、なぜ業績が好調のなかで大幅な人員削減に踏み切るのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 グループ全体で約8万人の従業員をかかえ、約200の国・地域に約140万社の顧客を持つリコーは、売上高の半分以上を海外で稼ぐ世界的なOA機器メーカーだ。複合機・プリンター・消耗品やサポートサービスを主力としてきたが、世界的にOAへの需要は縮小傾向にある。そのため、同社は昨年に発表した「第21次 中期経営計画」で「OAメーカーからデジタルサービスの会社」への転換を謳っており、23年度には48%だったデジタルサービスの売上比率を25年度には65%超まで引き上げる計画だ。具体的には、ワークプレイスソリューション、ICTマネージドサービス、自社ソフトウェアの拡販、印刷業のデジタル化、シングルユースプラスティックのバイオ素材化、バイオメディカル(iPS細胞を⽤いた医薬品や診断薬の創出基盤の整備・構築)などを成長させる。

 このため、社内のデジタル人材強化に投資する。全社員がデジタル技術修得とデータ活⽤に取り組むための各種学習メニューを提供し、ビジネスプロデューサー/ビジネスデザイナーを500人、クラウドアーキテクト を1000人、データサイエンティストを500人、情報セキュリティ人材を2000人に拡充する。

 このほか従来の複合機・プリンター事業のほかに、新規事業にも取り組む。360度カメラや業務ワークフロー効率化ソリューションの「Smart Vision」、新薬の研究段階の製造受託などの創薬支援、Jetting技術を応用した電池材料の印刷製造ビジネス「IJ電池」、カメラなどだ。

欧米企業では将来の予測に合わせて人員削減

 足元のリコーの業績は好調だ。25年3月期連結決算は売上高が前期比6.4%増の2兆5000億円、営業利益が同12.9%増の700億円、当期利益が同8.7%増の480億円の見通し。一般的に日本企業では人員削減を行うハードルが高いとされ、経営悪化時に行うケースが多いが、なぜ人員削減に踏み切ると考えられるのか。

 経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。

「リコーの主力事業のひとつであるオフィス向け事務機器市場はペーパーレスの流れを受けて長期的には確実に縮小していく市場です。実際、複写機・複合機の市場規模はこの10年間で2割近く減少しています。リコーとしてはビジネスの主力をDX支援へと移行させたいと考えています。業績が堅調なうちに事務機部門の営業や保守人員を減らしておくことで構造改革を早めたいと考えているのです」

 業績が好調でも人員削減に踏み切るケースというのは多いのか。

「欧米企業では将来の予測に合わせて、市場構造が縮小すると考えられる部門では早い段階から企業内の人員構成を削減していくことは頻繁に行われています。リストラという言葉自体、本来の意味は『再構築』なのです。なぜそれができるかというと、人材の流動化が進んでいることがその背景にあります。日本では業績が悪化しないと解雇ができないルールなので、将来を見越したリストラには多額の追加費用がかかる傾向があり、そのため企業はこのようなリストラをあまり行いません。その意味ではリコーの事例は日本では珍しいといえるかもしれません。

 リコーの場合、業績が好調なことが背景にあり、1000人の希望退職の費用として160億円を計上できる体力があります。その効果で翌年以降、年間90億円の増益も見込めるので、構造改革の投資としても比較的早く回収が見込める話です。直近の日本経済は半導体市場などを中心に経済が持ち直しており、大企業の多くが人材不足を嘆いているような状況です。人員が転職しやすいこのタイミングで大規模なリストラを決断したという意味で、非常に優れた経営戦略だといえるのではないでしょうか」

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

提供元・Business Journal

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