値段が高いワインは報酬に関連する脳部位が活性化する
実験の結果、同じワインであっても高い値段のラベルが貼られたワインの方をよりおいしいと評価しました。
また値段の高いラベルのワインを飲んだ時に、報酬が得られた時に活性化する内側眼窩前頭皮質(mOFC)の活動が大きく、そして活動時間も長くなる傾向が確認されています。
この結果は同じワインでも値段のラベルが高いと、よりおいしいと感じており、それと同時に脳が受け取る報酬が強いことを示しています。
つまり値段が高いという事実だけで、まったく同じ味なのにも関わらず味が良いと感じてしまうのです。
研究チームは「価格の情報だけで、私たちは体験の快適さを感じる脳の領域の活動にまで影響を受ける」と述べています。
もしかすると、高価なワインを飲んだ時に感じる美味しさは、実際の質ではなく、高いお金を出して購入することで活性化する脳部位の興奮に騙されている可能性が考えられます。
しかしなぜ高価なワインに対しては脳部位の報酬系が活性化するのでしょうか。
それは高い価値があるワインを購入した、あるいは飲んだのにも関わらず、不味いと思うともったいない、あるいは不快感を感じてしまう「認知的不協和」が生じているからだと考えられています。
「認知的不協和」とは自身の思考や行動と矛盾する認知を抱えている状態を指します。
たとえば、毎日ハンバーガーなどのファストフードを食べ、不健康な生活を送っている男性がいるとします。
そんな男性がある日、テレビで「健康を維持するためには、野菜や果物などのを食べ、バランスの取れた食事をしなければ、生活習慣病になってしまう」という内容を番組で目にしたとしましょう。
そのとき、この男性には「毎日ハンバーガーを食べたい」と「生活習慣病は避けたい」という矛盾した認知が生じ、強いストレスを感じます。
そのため人は自分の行動か、認知の仕方を変化させる心理が働くのです。
ほとんどの人は行動を改善することは困難なので、認知を変えることで矛盾を解消しようとします。
例えば、「ハンバーガーには野菜が挟まってるから健康に良い」とか、「食べたいものを我慢する方が逆に身体に悪い」という考え方をすることで、ファーストフードに食事を頼る健康面の矛盾を心理的に解消しようとするのです。
同様に「高いものを買ったのに微妙だった」、という状況は認知的不協和を生みます。
そこで人は高いものに対しては、「値段が高いのだから良いものに違いない」と無意識のうちに思い込むようになっており、これが脳の報酬系の活性化と関連していると考えられるのです。
私たちの主観的な味の体験は、単純なワインの味の質だけで決定されているわけではないようです。値段や色などの視覚的情報をはじめ、個人的な思い込みや期待などさまざまな要因が絡みあって形成されます。
もしかすると、私たちは、食べているものの味が良いから美味しいと言っているわけではなく、自分が高いお金を支払った事実、あるいはこのお酒を楽しみたいという気持ちの方が、美味しさを感じる重要な要素になるのかもしれません。
参考文献
Price tag can change the way people experience wine, study shows
THE PLACEBO EFFECT AND WINE
Baba Shiv: How a Wine’s Price Tag Affect Its Taste
Expensive and inexpensive wines taste the same, research shows<
元論文
Marketing actions can modulate neural representations of experienced pleasantness
Try It You’ll Like It: The Influence of Expectation, Consumption, and Revelation on Preferences for Beer
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしています。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。趣味はプログラムを書くことで,最近は身の回りの作業を自動化してます。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。