「1年のうち数カ月間は必ず絶滅状態に陥る」

そんな不思議なカメレオンがアフリカ南島沖に浮かぶマダガスカル島に存在します。

名前は「ラボードカメレオン(学名:Furcifer labordi)」といって、毎年4〜10月の間は生きた個体が全滅し、地上からこつぜんと姿を消すのです。

しかし11月になると何事もなかったかのように再びカムバックするという。

彼らの生態には一体どんな秘密が隠されているのでしょうか?

「早く生きて若く死ぬ」がモットー

ラボードカメレオンはマダガスカル南西部の低地林に分布する島の固有種です。

全長はオスが約23〜31センチ、メスが約15〜25センチで、オスには鼻先に特徴的なツノが生えています。

ラボードカメレオンのオス(上)とメス(下)
ラボードカメレオンのオス(上)とメス(下) / Credit: en.wikipedia

彼らの生態の基本となるのは「早く生きて若く死ぬ(Live fast die young)」です。

ラボードカメレオンはマダガスカルの雨季が始まる11月になるといっせいに卵から孵化します。

これはどの個体もほとんど同じタイミングです。

そして独ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲン(GAUG)の研究によると、ラボードカメレオンは急速なスピードで成長し、生後わずか2カ月で性成熟に達して大人となります。

さらに交尾を終えた後、これまた急速に老化が進行し、3月の雨季の終わりまでにオスメス全ての個体が全滅するのです(Scientific Reports, 2017)。

それに続く4月〜10月の間、地上にはラボードカメレオンが一切見当たらなくなることから、研究者らは「毎年決まった時期に絶滅状態に陥っている」と評します。

では、この間に彼らはどのようにして種としての命を繋いでいるのでしょうか?

乾季シーズンは卵の状態で乗り切る!

交尾を終えたオスはすぐに死んでしまいますが、メスには「産卵」という最後の大仕事が残っています。

ラボードカメレオンは乾燥した環境にとても弱いため、乾季を生きた状態で生き抜くことができません。

そこでメスは4月〜10月の乾季を乗り切るための卵を産んで、湿った地中に埋めておくのです。

地中に卵を産むメス
地中に卵を産むメス / Credit: Nature on PBS – Female Chameleon Erupts with Color Before Death(youtube, 2024)

アメリカ自然史博物館(AMNH)の爬虫類学者であるヴァレリア・ファブリ=ケネディ(Valeria Fabbri-Kennedy)氏とクリス・ラックスワージー(Chris Raxworthy)氏は「メスは産卵に全力を注いだ後は体力も資源もほとんど残っていないため、わずか数時間で死んでしまう」と説明します。

その死にゆく時間の中でメスたちは最後のメッセージを発するかのように、目まぐるしく変わる見事な体色変化を見せます。

こちらはメスの体色が変化するタイムラプス映像です。(元動画は記事の最後に貼付してあります)

死にゆくメスの体色変化
死にゆくメスの体色変化 / Credit: Nature on PBS – Female Chameleon Erupts with Color Before Death(youtube, 2024)

カメレオンの皮膚には黒・黄・青といった色素細胞が存在し、それを伸ばしたり縮ませたりして光反射の仕方を変えることで、体色変化を起こします。

カメレオンが色を変えるのは気分や温度、光、湿度などが要因です。

ラボードカメレオンのメスは死にともなう生理的反応を通じて、目まぐるしい体色変化を起こしていると考えられています。

こうして大人たちが全滅した後、残された卵は最大で8〜9カ月の潜伏期間を経て、再び新しい命として地上に姿をあらわします。

彼らが生涯の大半を卵として過ごすのは、生存には適さない熱くて乾燥した時期をスキップするためなのです。

この絶滅状態の期間はマダガスカルの雨季の長さによって多少前後しますが、基本的には親が子供に会うことはありません。

しかしながら子供たちは親から何も教わらなくても、ちゃんと使命を全うして、次の世代に命のバトンを繋いでいるのです。

卵を守り、生まれた子供を育てる存在がすべていない状態で次世代に命を繋ぐというのは、かなり大胆で勇気のいる戦略ですが、彼らはこの方法で適さない環境でも長く生存しているようです。

参考文献

The Madagascan Chameleon That Goes “Extinct” For A Few Months Every Year

The chameleon that goes extinct every year

Watch chameleon erupt in color ‘as if uttering her last words’ in her final moments before death

元論文

Highly variable lifespan in an annual reptile, Labord’s chameleon (Furcifer labordi)

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。