【クラフトビールとアイドル 二重推し活紀行・1】「推し活」といえば、アイドルや俳優など、人を応援する活動のイメージが強いだろう。確かに私も10年来、「WEST.」というアイドルグループを推している。推しが「どんなに嫌なことがあっても、忘れて笑顔にさせてくれる存在」だと定義した時、私にはもう一つ推しがある。それはクラフトビールだ。会社帰りの電車内、疲れ果てながらも新たに知ったブルワリーをGoogle mapでピン留めする時の私は、アイドルを応援する時さながらとろけた表情をしている。本連載では、アイドルのコンサートがてら(たまに出張がてら)遠征した土地のクラフトビールを楽しむ、二重推し活を紹介する。第1回は、宮城県での記録だ。
アメリカから温泉街に進出したブルワリー
2024年4月某日。推しのコンサートが宮城のセキスイハイムスーパーアリーナで行われるため、前日に仙台を訪れた。前乗りした理由はもちろん、宮城のクラフトビールを楽しむため。実はこの1週間前、ビール好きが集まるコミュニティで「私が好きなビール」を発表し合うイベントに参加したのだが、宮城県にある「グレートデーンブリューイング」のビールを上げている人が30人中、2人もいた(国内外、クラフト・大手メーカー問わず選ぶ会だったにもかかわらずだ)。
グレートデーンブリューイングは、仙台駅から路線バスで1時間程度。温泉とビールで大人の休日プランを遂行すべく、現地に向かった。
到着したのは「日本三御湯」に数えられる秋保温泉街。老舗温泉旅館が並ぶ中、真新しく無機質な建物を発見した。グレートデーンブリューイングの醸造所と併設するレストランだ。
この施設ができたのは24年1月だが、グレートデーンブリューイング自体はアメリカ・ウィスコンシン州で94年からクラフトビールを製造している老舗ブルワリーである。
醸造責任者の清沢哲也氏と代表のロブ・ロブレグリオ氏がアメリカで出会った後、日本で長野県の「松本ブルワリー」の立ち上げ・醸造に関わり、お互いに「いつか日本でブルワリーを作りたい」と願っていた。そんな二人の想いが共鳴し、グレートデーンブリューイングの日本進出が実現したのだ。
5000平方メートルほどある土地に、車30台が停められる駐車場を完備。施設の外で記念撮影をしていると次々と新しい車が入ってくるので、慌てて室内へと入る。
推しと対面 完成度の高いビールと地元の名産を味わう
入り口を抜けると、カウンター越しに見えるたくさんの蛇口。この光景を見るだけで、自分の顔がにやけるのが分かる。スタッフのていねいな説明とともに、ビールのメニューをもらうと、なんと16種類ものビールがつながっている。通常、ブルワリー併設の施設であっても自社ビールは10種類前後で、他のブルワリーのビールをゲストビールとして置いていることが多いため、この数は異常だ(良い意味で)。
早速、ビールと食事を注文。1杯目は、このブルワリーの代表的なビール「グレートラガー」。ビール好きたちの推薦も、このビールである。ラガーは日本の大手メーカーのビールと同じスタイルだが、グレートラガーは飲みやすさと後に残る苦味にラガーらしさを残しながらも、フルーティーな香りと甘みでエールビールの雰囲気も持つ。そのバランスがなんとも素晴らしく、老舗ならではの技術と完成度の高さを感じた。
合わせた食事は「オイスターポーボーイ」。カキフライを挟んだサンドイッチで、石巻の牡蠣を使用している。グレートデーンブリューイングのCOOは海外で受賞歴を数多く持つシェフで、食事のクオリティも非常に高い。他にも、蔵王のチーズを使ったフライや、宮城の名産ホヤを使ったチャウダーなど、宮城とアメリカの掛け合わせを楽しめるメニューが多かった。
移動を控えていたため、滞在2時間で飲んだビールは5種類。あとはお土産として買って帰ることにした。店内にある冷蔵庫には5種類のビールが冷えており、その全てを購入して店を後にした。