またポリコーム複合体は私たち動物にも存在していることが知られており、二次成長関連の遺伝子を適切な時期が来るまで抑え込み、赤ちゃんのうちに思春期が起きてしまうのを防いでいます。
このようにポリコーム複合体は幅広い動植物(さらには単細胞真核生物も含む)において、遺伝子の抑制(オフ機能)を担っています。
たとえるなら、何も抑制のない状態ではDNAはある意味で「モンスター」であり、放っておけば設計図に記されたものを無秩序に作る「大暴れ」を起こしてしまいます。
そのため細胞はポリコーム複合体という拘束具を開発し、モンスターを飼いならして生命現象の調節を行っているわけです。
生命現象において遺伝子の抑制は、遺伝子の活性化と同じくらい重要と言えるでしょう。
一方で、管理された環境では少し話が違ってきます。
厳しい自然環境ではタイミングを外した開花は植物にとって致死的ですが、植物園や農場などの管理された環境では、不足する栄養を補うことも可能です。
そのため、もしこの拘束具「ポリコーム複合体」を上手く制御する方法をみつけることができれば、開花を速めて冬の桜祭りを開催したり、逆に遅くして夏の桜祭りを開催することも可能になるでしょう。
またイネなどの植物の開花時期を調整することで収穫時期を調節し、夏の終わりに起こりがちなコメ不足にも対応できるでしょう。
ただこのようにポリコーム複合体の知識はあっても、上手く制御する方法についてはまだよくわかっていませんでした。
特に、一度抑制された遺伝子を再活性化する仕組みについては多くが謎でした。
そこで今回、奈良先端科学技術大学院大学の研究者たちは、ポリコーム複合体による制御機構の解明に挑みました。