犯人は、個人の特定につながる情報を事件現場から排除しようとするものです。
犯罪ドラマなどでも、犯人が必死に指紋を拭き取ったり、コロコロで髪の毛を回収したり、そもそもそれらが残らないよう手袋をしたりというシーンが描かれます。
しかし科学捜査の進歩により、犯人が逃げ切ることはどんどん難しくなっています。
最近、オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University)理工学部に所属するマリア・ゴーレイ氏ら研究チームは、部屋の空気中に残されたDNAから個人を特定できると報告しました。
特に部屋の空気を循環させるエアコンの表面からは、最近部屋にいた人だけでなく、しばらく前にその部屋にいた人のDNAまで採取できるというです。
この科学捜査が確立されれば、部屋に何も証拠を残さなかったとしても、その部屋にいたというだけでもう犯人が逃れることはできなくなるかもしれません。
研究の詳細は、2024年4月2日付の学術誌『Electrophoresis』に掲載されました。
動物や人間が残す「環境DNA」とは
動物は、排泄物や脱皮した皮膚、その他の物質を通してDNAを環境に放出しています。
それらは「環境DNA(eDNA)」とよばれており、水や土壌、空気などに存在することが分かっています。
例えば、魚の環境DNAは、排泄物、粘液、剥がれ落ちた鱗、皮膚、死体などを通じて水中に存在しており、採取した環境DNAを分析するだけで、その水域にどんな種類の魚がいるのか、また個体数の推定までもが可能だと言われています。
実際、2018年のアメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)の研究では、環境DNAの分析により、南カリフォルニアの海域にホオジロザメの存在を確認できたと報告しています。
その海域では、過去の乱獲によりホオジロザメの数が減っていましたが、最新の分析で、いくらか復活していることが分かったというのです。
そして、これら動物たちと同じように、人間もまた行く先々で環境DNAを残していきます。
人間の環境DNAは、私たちが呼吸したり話したりする際に吐き出された飛沫の中に含まれていたり、皮膚から剥がれ落ちる極小片として、しばらく空気中を漂うことがあるのです。
いくつかの研究によると、落屑(らくせつ:皮膚から角層の最外層が剥がれていく現象)により、1日に最大108個もの細胞が落ちると言われています。
また、空気中の環境DNAは、部屋で稼働しているエアコンに吸い込まれることもあります。
オーストラリアのフリンダース大学(Flinders University)に所属するマリア・ゴーレイ氏ら研究チームは、こうした点を考慮し、エアコンと空気中から人間の環境DNAを採取できるか調査することにしました。