こんにちは! たびこふれのシンジーノです。
福井県の越前市(旧武生市)に、全国でも珍しい「タンス町」という通りがあります。武生は、昔、国府が置かれていた文化・経済の中心地で、お金持ちの旦那衆の家に出入りしていた指物職人が暮らす通りがありました。明治時代になり、そうした職人がタンスを作るようになり、いつの頃からか、「タンス町」と呼ばれるようになったそうです。
当時は数十軒ものタンス屋さんがあったそうですが、時代の流れにより減ってしまい、今ではタンス屋さんは数軒を残すのみになっています。
今回は、今もこだわりのタンスを作り続けているタンス屋さんをご紹介したいと思います。
武生は城下町でもあったため、敵が攻め入った時に、通りの奥の方まで見渡せないように、このタンス町の通りも、わざと少しカーブさせて作られているそうです。
目次
越前箪笥とは? 1300年の歴史
奈良の法隆寺の大宝蔵院に国宝の「橘夫人厨子(たちばなふじんずし)」が安置してあります。この厨子の台座に「越前」の文字が墨書きされています。このことから8世紀には、既に越前の地に優れた木工技術があったことがわかります。
越前箪笥とは、経済産業大臣指定伝統的工芸品に指定されており、ケヤキや桐などを利用し、釘を使わない「ほぞ接ぎ技術」で作られているのが特徴です。その堅牢な造りは、なんと三百年持つと言われています。
今もタンス町でタンスを作り続けているお店のひとつが「三崎タンス店」さんです。
三崎タンス店の歴史
(記事内容は、三崎タンス店の公式サイト、および三崎社長からのインタビューより引用しています)
三崎家の先祖は、もともと医者の家系でした。診察料を払えない貧乏な人々からはお金を取らないという、赤ひげ先生のような先生だったと伝えられているそうです。そのため、薬代などを稼ぐために、医者の副業的に始めたのが、塗師や指物師の仕事だったということです、
初代・三崎半三郎が指物師として慶応元年頃に創業しました。江戸時代~明治時代には、商家の金庫代わりとして使われた「越前箪笥」や旦那衆や寺社仏閣のオーダー指物を製作してきました。
大正~昭和時代には、嫁入り道具としての「総桐タンス」を作り、平成~令和になって、タンスだけでなく「無垢木製品」のテーブルや棚類など、昔ながらの「越前指物」の技術を受け継ぎながら、現代のデザインや生活環境に則したオンリーワン商品も作られています。地元に根差し、ただ伝統を守るだけでなく、時代とともにお客さまに寄り添いながら、150年続く老舗の家具店となりました。
こちらが8代目社長の三崎 俊幸さんです。
おおらかで気さくで優しそうな人柄を感じさせます。
越前箪笥とは?
こちらが越前箪笥です。
越前箪笥は、時代箪笥として全国的にも数少ない経済産業大臣指定伝統的工芸品のひとつとして認定されています。越前箪笥には2種類あり、1つは、着物などを収める衣装箪笥で、もう一つは商家で証文や大福帳を収納する金庫代わりの箪笥です。
金庫箪笥は、使用目的が金庫なので、堅牢で壊れにくい造りをしており、すべての引き出しに鍵がかかり、火事になった時、運び出せるように、車輪が付いているのが特徴です。
桐箪笥とは?
下の写真の左側に見えるのが桐箪笥です。
衣装を保管することに使うタンスです。桐箪笥は、昔から「武生の箪笥なら間違いない」と言われるほど質が良いと言われてきました。桐箪笥は桐自体が呼吸し、湿度を調整しているため、衣類にカビが生えにくく、防虫成分が多いため、虫がつきにくいといわれています。
また、発火点が高いため、燃えにくく、火事の時には、外は燃えても中は無事だったという話も伝わっています。
桐を3年以上寝かせてから作る
三崎タンス店では、桐を原木で1年、製材して渋抜き乾燥で1年、倉庫で更に1年以上寝かせる、つまり3年寝かせ充分に木の狂いが収まってから使用します。(外国製の木材は、この狂いの調整をしないで表面的に加工して作ってしまうので、出来上がった後に、歪みが生じたりすることが多いそうです。)
三崎タンス店さんはこの気の遠くなるような時間をかけてタンスを作られるので、100年以上使えるタンスを作ることができるのです。また桐タンスは汚れても、表面をお湯で洗い、薄く削ることで新品同様に生き返らせることができます。こちらで見ていただくと一目瞭然です。
桐タンスは、一生ものとして、また親子代々受け継がれるものとして、価値の高いタンスであることがわかります。あるお客さまが、蔵の奥にしまってあった黒ずんだ桐箪笥が洗い直しによって真っ白に蘇ったのに驚いて「こんなにきれいになるの!これなら蔵の奥じゃなく、人目につくところに置きたいわ」とクローゼットの扉の中に仕舞う予定だったものを、リビングに置くことに変更されたこともあったそうです。これだけきれいになるのなら、お客さんのおっしゃることもわかりますね。
一枚板・無垢材家具
金庫代わりのタンスも最近では需要も減っているので、三崎タンス店さんが最近力を入れておられるのが、一枚板、無垢材家具です。杉や松などの針葉樹ではなく、硬く木目が美しい広葉樹を中心に作っています。生木を購入し、野積みして2~5年乾燥させると、木が乾いて反ったり、捻じれたりしてきます。その反りを両面を落として、まっすぐの木材にしてから使います。ここにも長く使ってもらうための手間を惜しまない三崎タンス店さんのこだわりが見られました。
一枚板のテーブル。実物を見ると見事です。「これは良いものだなぁ」と見とれてしまいます。欲しくなってきます。(これに見合う広いお家が必要ですが(笑))
お店の看板の下のひさしの部分を見てください。頑丈な木が2枚重ねてあります。これは箪笥の材料となる木材を2階で保管する時、出し入れはお店の表から上げ下げして運んだため、材料が痛まないように、家に傷がつかないようにしっかりした造りにしたそうです。いかにも箪笥屋さんらしいですね。
三崎社長インタビュー
Q1:三崎タンス店さんが現在行っている事業内容を教えてください。
A:次の5点です。
1・伝統的工芸品:越前箪笥、総桐たんすの受注製造販売
2・銘木一枚板テーブル、越前指物など木製品の製造販売
3・玩具や雑貨など木製小物の製造小売販売
4・古い桐たんす等の修繕(洗い直し・削り直し)
5・ベッドやソファ等一般家具の小売販売
Q2:その中でも三崎タンス店さんが得意とするものは?
A:タンス類は得意ですが、銘木一枚板は人気があり、力を入れています。また、昔の桐タンスをきれいに直す、というご注文も増えており、好評です。
Q3:三崎社長が、この仕事をやられていて感じる "一番の喜び" はなんですか?
A:家具をお届けしたときに、お客様から「良かった!」というお声をいただいた時ですね。お店で現物やサンプルを見ても、実際に自分の家に入れてみると想像と違っていたという場合もあります。家具を納入する現場を先に見せていただく場合もありますが、基本的にはお届けしたときに初めて入ることの方が多いので、「お部屋は何畳間ですか?」とか「床材の色はどんな感じですか?」と、会話の中から事前に情報を頂いて、お客様の想像と実像とのギャップをできるだけ埋めておき、あとで後悔されないようにと、心がけています。
Q4:三崎社長が感じるタンス町の良いところを教えてください。
A:このあたりは、7世紀には「越の国」の玄関口として、8世紀からは越前国の国府として、戦国時代には越前府中城の城下として町を形成してきました。通りの両側には、江戸から明治に建てられた趣のある木造の町屋と、羽振りの良かった昭和中頃に建てられた鉄骨や鉄筋コンクリート造の2~3階建ビルが入りまじっています。タンス町通りを散策すると、タンス店や建具店だけでなく金物屋・タタミ屋・ふとん屋などの看板が上がっているのが見え隠れして、ちょっと雑然とした感じが私は好きですし、また、道幅4m~6m程の狭すぎず広すぎない道路は、散策するのにちょうどいい感じだと思います。地元の人も、朝のジョギングやイヌの散歩コースに使われている方、多いですよ。
取材後の感想
「タンスなんて・・・どれも基本的には似たようなもので、価格が安ければ安いほどいいんじゃないか」なんて安易に考えていた自分が恥ずかしくなりました。
材料へのこだわり、特に3~5年も置いて乾燥させ、 反りや捻じれを十分出させておいてから作る、その妥協を許さぬ仕事師としての姿勢は、安易な作り方も多い、外国材とはまったく別の次元のものだ、ということも感じました。
そもそもタンスは、大切なものを保管する重要な役割を担っているものです。100年以上も使えるように、という意識で作られた商品(作品)です。
「価格とみ見てくれだけで安易に選んではいけない」、これは私たち消費者の責任でもありますね。
本物を作る目、本物を守り、繋いでいこうとする姿勢を認め、評価し、私たち消費者も本物を見る目を育てる。次の時代に繋げていくことの大切さを感じました。効率化、汎用化、流行を第一優先とし、こういった確かな価値のある、あの技術がなくなってしまうことは日本にとっても損失だと思います。
金具付きの堅牢な金庫箪笥、花嫁道具となる桐箪笥。
ふだんタンスになんて意識が向くことがありませんでしたが、今回、生で、自分の目で芸術作品のような箪笥を見ると、「いいもんだなあ」と感じます。
無垢材一枚板のテーブルなんかは本当に欲しくなりました。このテーブルで紅茶を飲んだり、ご飯食べてみたいなあと思いました。
三崎タンス店
〒915-0822
福井県越前市元町5-10(タンス町通り)
Tel:0778-22-0568
営業時間 10:00 -19:00
定休日:毎週木曜日
文・写真シンジーノ/提供元・たびこふれ
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