みなさんの周りにも、親切心から事あるごとに手助けや助言をしてくれる人がいるのではないでしょうか。
その心意気に対して「ありがたいな」と思う反面、「そこまでしてくれなくても…」とか「正直いらないなぁ」と思うことがあるかもしれません。
そして最近、ドイツ連邦労働安全衛生研究所(BAuA)の研究で、望まない手助けを受けた人は、自分のペースを乱され、高いストレスレベルを感じることが判明しました。
日本には”ありがた迷惑”という言葉もありますが、実際に親切心が裏目に出てしまうようです。
研究の詳細は2024年5月3日付で心理学雑誌『Stress and Health』に掲載されています。
過剰なサポートを受けると何が起こるのか?
現代社会に生きる私たちの多くは、1日の大部分を仕事に費やして生活しなければなりません。
そのため、職場の環境やそこで起こった出来事が個々人のメンタルヘルスや幸福度に大きく影響します。
中でも、円滑な職場勤務を進める上で重視されているのが「社員間のサポート」です。
問題ごとに直面したときに同僚や上司から的確なアドバイスや手助けを受けることは、社員のモチベーションを保ち、生産性を高めるのにつながります。
もし同僚や上司のサポートが一切なくなってしまえば、生産性も落ちますし、職場の人間関係もうまく行かなくなるでしょう。
その一方で、過剰なサポートは、サポートなしと同等かそれ以上に、マイナスの効果を産んでしまう恐れがあります。
同僚や部下がさして困ってもいないのに頻繁に助言したり、すでにできていることを無理に手助けしたり、あるいは彼らの意思を尊重せずに自分のやり方を強制したりする場合がそうです。
ひとことで言い換えれば、「ありがた迷惑」な行為といえるでしょう。
しかし、こうした「ありがた迷惑」が受け手のメンタルヘルスにどのような影響を及ぼすかは詳しく知られていませんでした。
そのため多くの人は「しない親切」より「する親切」を選択してしまいがちです。
そこで研究チームは今回、同僚や上司から望まないサポートを与えられることが、受け手の心理面にどんな影響を及ぼすか調べてみました。
ここでチームは、不要なサポートに対して次のような仮説を立てました。
「望まないサポートを受け続けると、自律性において欲求不満が生じ、それが仕事に対する感情的な反芻(はんすう)の高まりを引き起こして、仕事からの心理的ディタッチメントを妨げる」
研究チームの言葉には専門的な表現が多いですが、これは一体どういうことを意味しているのでしょうか?
「自律性の欲求不満」は文字通り、過保護なサポートを受けることで、「自分は一人でやれている」という自律性の感覚が欠乏してしまうことを指します。
「感情的な反芻」とは、同じことを感情的に何度も考え込んでしまうストレス過多な思考のことです。
ここでは仕事の問題について、職場を離れても繰り返し考えてしまうことを指します。
そして「心理的ディタッチメント」とは、勤務時間後に物理的・心理的に仕事から距離を取ることを指します。
これは仕事から受けた疲労やストレスから回復するのにとても重要であり、心理的ディタッチメントができないと、プライベートでも仕事のことばかり考えてしまい、メンタルヘルスに悪影響が出ます。
今回の調査では、この仮説の真偽が検証されました。