ニューラリンク世界初のユーザーがチェスのプレイに成功
ノーランド・アーバーさんは2016年にダイビング中の事故に遭って、肩から下が麻痺状態に陥りました。
彼は元々、熱心なゲーマーでしたが、肩から下の感覚がなく、自力では四肢を動かせないため、ゲームもまったくプレイできなくなったといいます。
しかし今年1月、アーバーさんはニューラリンクの超小型チップを脳内に埋め込む手術を受ける決心をしました。
アーバーさんはニューラリンクの試験に参加した理由について「世界を変える革新的な試みに私も参加したかったから」と話しています。
脳内インプラントの埋め込み手術は無事に行われ、認知機能にも問題は生じませんでした。
こうしてアーバーさんはニューラリンクの開発した超小型チップの世界初の治験者となったのです。
そして今月20日、アーバーさんはニューラリンクのエンジニアと一緒に、超小型チップを介したオンラインチェスゲームをプレイする模様をXでライブ配信しました。
そのときの映像がこちらです。
https:// t.co/OMIeGGjYtG
— Neuralink (@neuralink) March 20, 2024
最初はカーソルを動かす初歩的な訓練から始めたそうですが、アーバーさんは今や、脳内で”考える”だけで盤上のコマを自由に動かし、見事にチェスをプレイしています。
「本当にすごい。ニューラリンクのおかげでテレパシーが使えるようになったみたいだよ」とアーバーさんは述べました。
また、思考でカーソルを操る訓練については、スターウォーズの「フォースの使い方を学ぶようなものだった」と冗談めかして話します。
今ではチェスの他に「シヴィライゼーション(Civilization)」というシミュレーションゲームをプレイしたり、日本語やフランス語のレッスンを受けたりしているという。
アーバーさんは「この技術はまだ開発途中にありますが、私の人生はすでに大きく変わりました」といいます。
ニューラリンクのエンジニアチームも、超小型チップのさらなるアップデートを進めていく予定だと述べました。
ニューラリンクのBMIは、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病など、通常のコミュニケーションが難しい患者をサポートする革新的な技術になると期待されています。
その一方で、ニューラリンクは、人間の脳内にチップを埋め込むことの危険性や倫理的な問題から懸念の声が多数あがっています。
とはいえ、チェスやシヴィライゼーションなどのゲームプレイを全身麻痺患者が実行できるとなると、身体がまったく動かなくなった人でもゲームの世界では自在に遊んだり仕事ができる未来が近づいている印象はかなり強まりました。
一般の人にも応用される時代がどれだけ先になるかは不明ですが、身体が自由に動かないという障がいを持つ患者にとって非常に明るい技術が誕生しつつあるのは確かでしょう。
参考文献
World’s First Neuralink User Plays Chess Via Thought After Brain Implant
Neuralink: Musk’s firm says first brain-chip patient plays online chess
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。