「左翼と反ユダヤ主義の関係について」考えなければならない。同記者によると、「反ユダヤ主義の根は深い。一見、反射的なポストコロニアリズムから来ているように見える。

イスラエルは帝国主義的、人種差別的、植民地的な拡張政策を行ってきたと受け取られ、パレスチナ人は一種の先住民と再定義されているからだ。典型的な階級闘争の世界観だ。そこではパレスチナ人、アラブ人、イスラム教徒は被害者であり、イスラエル、ヨーロッパ、アメリカは加害者だ」というのだ(「『加害者』と『被害者』の逆転現象」2023年11月4日参考)。

キリスト教社会ではユダヤ民族はイエス・キリストを十字架で処刑した「メシア殺害民族」と呼ばれてきた。フランスの初期社会主義でも反ユダヤ主義が広まっていた。ロスチャイルド家と共に「ユダヤ金融封建主義」が全ての悪の根源だと考えられ、左翼は長い間、「ロスチャイルド家」、「ロックフェラー家」、「アメリカの東海岸」をユダヤ人の隠喩として囁き続けてきた。

そしてカール・マルクスの登場だ。「ユダヤ人問題によせて」(1843年)で露骨な反ユダヤ主義的な憎悪を主張し、「ユダヤ教の世俗的な根源は何か?実用的な欲望、利己主義だ。ユダヤ人の世俗的な礼拝は何か?それは商売だ。彼らの世俗的な神は何か?それは金だ」と描写している。

ヴァイマ―記者は「マルクスの主張はナチス・ドイツのその原文のように感じる」と述べている。マルクスの反ユダヤ主義はソ連共産主義政権に継承され、スターリンの下では「ユダヤ人の陰謀」に対する粛清キャンペーンが行われた(「ユダヤ民族とその『不愉快な事実』」2014年4月19日参考)。

左翼の反ユダヤ主義は反資本主義と関連している。「労働者の天国」を掲げてきた左翼共産主義者は結局、世界の資本世界を牛耳っているユダヤ人資本家への戦闘を呼び掛けているわけだ。左翼にとって、パレスチナ紛争は自身の革命を推進するうえで不可欠な戦いであり、ユダヤ社会に支配されたパレスチナ人の解放運動(共産革命)ということになる。

そのうえ、共産主義の革命論がヘーゲルの弁証法を逆転して構築(唯物弁証法)されているように、左翼の世界では常に被害者と加害者は逆転される。左翼は「ハマスが昨年10月7日、イスラエル領に侵入し、約1200人のイスラエル人を虐殺し、250人余りを人質にした奇襲テロ事件から現在のガザ戦争が始まった」というファクトを完全に無視し、パレスチナ側を被害者、イスラエルを加害者として、イスラエル打倒を叫んでいる。

例えば、1972年9月5日、パレスチナ武装組織「黒い9月」の8人のテロリストは警備の手薄いミュンヘンの五輪選手村に侵入し、イスラエル選手団を襲撃。2人を殺害し、9人を人質にするテロ事件が起きた。その時もパレスチナのテログループは民族解放戦士のように扱われた、といった具合だ(「『ミュンヘン五輪テロ事件』の教訓」2022年9月3日参考)。

いずれにしても、左翼共産主義者は「宗教をアヘン」と蔑視するが、その思想は非常に宗教的だ。真偽、上下を恣意的に逆転し、世界革命(地上天国)を標榜する似非宗教だ。

<参考資料> 「『反ユダヤ主義』のルーツの深さ」2013年11月6日
「反ユダヤ主義は耐性化ウイルスか」2013年11月20日
「なぜ反ユダヤ主義が生まれたのか」2015年1月28日
「『輸入された反ユダヤ主義』の脅威」2019年3月26日
「なぜ反ユダヤ主義が消滅しないのか」2020年12月6日
「ユダヤ人『DNAに刻み込まれた恐怖』」2023年11月3日
「パレスチナ人はアラブの危険な番犬?」2023年11月6日

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。