米ワシントンでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、共同声明で世界経済の底堅さを確認した一方、「下振れリスクの高まり」に警戒感を示した。ウクライナや中東の地政学問題と共にリスク視されたのが目前に迫る米大統領選。結果次第で保護主義拡大やインフレ再燃が懸念され、世界経済の先行きに影を落とす。

◇「エンジン」減衰

「貿易はもはや成長の力強いエンジンではない」。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は24日の記者会見で、世界経済を分断する一段の保護主義台頭に警鐘を鳴らした。

 IMFは22日公表の最新の経済見通しで、世界の成長率を2024、25年とも3.2%と予想。インフレ抑制と成長が両立できる「ソフトランディング(軟着陸)」実現のシナリオを維持した。

 一方でIMFは、米国が25年半ばに一律の輸入関税を課し、米欧中が互いに関税を掛け合うリスクシナリオも検証。世界の国内総生産(GDP)は25年に約0.8%、26年に1.3%減少する場合もあると試算した。10~20%の一律関税や60%の対中関税を掲げる共和党候補のトランプ前大統領が念頭にあるとみられる。

 イエレン米財務長官も22日、広範な関税は「物価高を招き、消費者や企業の競争力に甚大な悪影響をもたらす」と警告。G20声明は「保護主義に抵抗する」と強調した。

◇スタグフレーションも

 コロナ対策で膨張した公的債務も無視できないリスク。「選挙イヤー」の今年は世界で歳出改革よりも財政再拡大の動きが広がる。日本の石破茂首相も選挙後に昨年度を上回る規模の補正予算案編成を示唆。世界経済の前途には「低成長と高債務」(ゲオルギエワ氏)の難路が待ち構える。

 米国では民主党候補のハリス副大統領、トランプ氏とも大規模な減税・歳出策を訴える。トランプ氏の政策ではより財政赤字が膨らむとし、市場ではトランプ氏勝利時の財政悪化懸念から米長期金利が上昇。高関税による景気下押しも重なり、物価高騰下の不況というスタグフレーションに陥るとの見方も出る。

 米失速なら新興国も影響は免れない。G20議長国ブラジルのアダジ財務相は24日、「ブラジルは世界と貿易・サービス・金融で完全につながっている」と波及効果への緊張感を漂わせた。

◇円安懸念も再燃

 米金利上昇を受け再び円安も進んでいる。23日には約3カ月ぶりに一時1ドル=153円台に下落した。就任後初めてG20に参加した加藤勝信財務相は会議で「一方的な急速な動きだ」とけん制したが、輸入価格上昇を通じた国内物価高懸念も再燃しつつある。

 植田和男日銀総裁は24日の会見で、政策運営で重視する米経済の先行きを巡り、依然として「分析を深めないといけない」と説明した。再利上げは円安抑制にもつながるが、選挙後も米政治・経済の混迷が続くと見込まれており、金融政策のかじ取りは複雑さを増しそうだ。(ワシントン時事)

提供元・Business Journal

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