SORA-Qから学ぶ

SORA-Qの変形技術の源流は、ロボット玩具「トランスフォーマー」である。そもそも、なぜ「変形」させたのか?

「トランスフォーマーは、宇宙からやってきたロボ生命体。ふだんは、(トラックなど)地球の乗り物に変形して、目立たないようにしている。戦うときだけロボ生命体の姿に戻る」

左:トランスフォーマー生体 右:トランスフォーマー変形後タカラトミー プレスリリースより

この、子どもたちの世界観を壊さないためだ。一般メーカーから見れば「有用性」が低い変形技術だが、タカラトミーの見方は異なる。同社のトランスフォーマー開発者・國弘高史氏は、「変形」について取材者に以下のように語っている。

國弘氏:(お気に入りのトランスフォーマーを見せながら)変わった変形パターンがうまくできたので気に入ってるんです。蛇からロボットに変形するんですけど……。

――あれ? 足がないですよね。

國弘氏:これはね。こうすると……。

――おおーっ!

國弘氏:ね、面白いでしょ。これは割と気に入っていますね。驚きのある変形。変形ロボやから、やっぱり変形が楽しいといいじゃないですか。

(トランスフォーマーの神様”が語り尽くす! 変形ロボット開発秘話 – 価格.comマガジン)

楽しそうだ。「有用性」なんて意識していない。子どもたち――あるいは少年の心をもつ大人たち――を楽しませるため、自身も楽しんでいるように見える。

「イノベーション」は、このようにして生まれるのではないか。

今、世界で役立っている技術は、発見時は有用ではなく、発見者も有用性など意識していなかったものが大半だ。GPSに用いられている相対性理論しかり。マイクロプロセッサーに用いられている量子力学しかり。どちらも、発見から数十年経過して、ようやく実用に供されている。

タカラトミーは、トランスフォーマー発売の1984年以降、40年間「変形技術」を研究し続けてきた。

SORA-Qの活動時のサイズは13センチ。月まで運べるのは8センチだった。5センチサイズダウンできたのは、「変形」技術があったからだ。タカラトミーの培った技術は、「変形」という演出用の技術から、「ダウンサイジング」という実用的な技術として結実した。

「既存の技術を、従来とは異なる用途に用いて有用性を高める」

これは「イノベーション」そのものだ。

日本企業からイノベーションが生まれない、と言われて久しい。役に立つ・立たないの判断を急がないこと。短期的成果を求め過ぎないこと。日本企業が、SORA-Qから学べることは多いのではないだろうか。

タカラトミー プレスリリースより

・タカラトミー「変形」技術で月面へ | アゴラ 言論プラットフォーム

【参考】

JAXA公式サイト、JAXA公式Youtubeチャンネル タカラトミー公式サイト、公式Youtubeチャンネル おもちゃ meets 宇宙! 月面を探査する変形ロボット「SORA-Q」の生みの親、同志社大学の渡辺公貴先生に聞く開発秘話 | ほとんど0円大学 おもちゃの技術満載、世界最小の月面ロボ「SORA-Q」がすごい!|三菱電機 DSPACE

Forbes JAPAN Xtrepreneur AWARD グランプリプロジェクトに聞く「共創価値と社会実装」

日本の探査機「SLIM」が月面着陸成功、搭載カメラ「SORA-Q」の撮影成否は1~2週間後に判明:東京新聞 TOKYO Web

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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