生命保険信託による対応

冒頭のような高齢者のペット問題解決の選択肢として、生命保険信託を活用した「ペット信託」がある。

生命保険信託とは、信託銀行等が死亡保険金の受取人となり、契約者が生前に定めた親族等に、あらかじめ決められた方法で、金銭を支払うものだ。

たとえば、小さな子どもが、親を亡くし受取人となった場合、自分では死亡保険金を管理できない。そこで、あらかじめ「毎月10万円を、子どもの世話をする人(親族など)の口座に振り込む」と決めておく。世話をする人の横領や、横領に伴う育児放棄(※)などを防ぐことができる。

※ 06年に、後見人となった親族が、子どもを赤ちゃんポストに預け、保険金6千万円を着服し失踪する事件が起こっている。

これを、ペットに活用したのが(公益認定法人等主体の)「ペット信託」である。

ペットをサポートする公益認定法人等が、飼い主の死亡保険金を(信託銀行等を介して)受け取り、残されたペットの飼育費用に充てる。ペットは、自法人の施設で飼育するか、外部施設や里親に譲渡する。

上述のペット「保険」は、飼い主の家族など相続人が、保護施設を探し、引き取り交渉をする必要がある。一方、「ペット信託」にはその必要がない。相続人の負担が軽減されるというメリットがある。

中には、飼い主の突然死などにより、ペットが長期間放置されてしまうことを防ぐ「安否確認サービス」や、譲渡先の飼育状態を観察し、飼育不能と判断した場合は、別の保護施設へ移住させるなど、より踏み込んだサービスを提供するものも登場している。

ペット信託は個人でも利用できるが、手続きが煩雑かつ費用が高額だ。今後は、公益認定法人等が主体となった「ペット信託」が増加すると思われる。

認知度向上が課題

令和3年12月に京都府が実施した「高齢者のペットの飼養実態アンケート」によると、ペット信託や保険の制度を知る高齢者は37.5%に留まった。まだまだ認知度が低い。一方、保健所では、高齢者のペットを引き取るケースが目立ってきているという。

保険・信託とも、飼い主が亡くなった後では対応できない。ペット遺棄や殺処分を減らすためには、これらの認知度を高め、事前に対策してもらう必要があるだろう。

Artur Pawlak/Pixabay

【注釈】 ※1 上限50万円。犬猫いつでもパックのみ

※2 20年前: 2002年8月~2003年7月 東京農工大学・林谷秀樹准教授調査 2023年: 一般社団法人ペットフード協会 令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査

【参考】 拡大を続けるペット保険市場の動向|デロイト トーマツ コンサルティング合同会社

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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