しかしながら、「愛する家族を失う」ことは、幼少期だけでなく、人生の様々な段階で経験するものであり、そのような幅広い期間を扱った研究は多くありません。
そこで今回、アイエロ氏ら研究チームは、エピジェネティック・クロックと呼ばれるDNAマーカーを使用して、愛する人を失った経験と老化スピードの関係を調査しました。
このエピジェネティック・クロックとは、エピゲノム(どの遺伝子を使い、どの遺伝子を使わないかを決めるスイッチ)のうち、DNAメチル化のパターンを調べることで、細胞や組織の生物学的年齢を推定する技術のことです。
これらのパターンは時間と共に変化するため、生物学的年齢の指標として使うことができます。
愛する人を失うと老化スピードが速くなる
この研究は、非常に長期にわたって実施されており、アメリカの3963人の対象者を1994年から2018年まで追跡し、5つの調査ウェーブを経て健康と行動の関係についてデータが収集されました。
この各ウェーブでは、家族の死を経験したかについても調査されており、結果、参加者の約40%が33~43歳の成人期に少なくとも1回は家族を失ったと分かりました。
当然と言えますが、親を失う経験は、幼少期や青年期(6%)に比べて成人期(27%)に多くみられました。
そして研究では家族の死という経験(ストレス)が、幼少期~青年期(18歳まで)と成人期(19~43歳)で、生物学的年齢にどのような影響をもたらすか調べられました。
そして多くの死を経験した参加者は、愛する人の死を経験をしなかった参加者と比べて、生物学的年齢が有意に高いと分かりました。
この生物学的年齢の影響については、高くなるほど慢性疾患を抱えやすくなったり、寿命自体が短くなると考らえれています。
これは愛する人の死(今回の場合家族)の経験が、生物学的な老化速度を加速させている可能性を示唆します。