クレーターといえば、半球形にくぼんだ隕石の跡地としておなじみのイメージがあると思います。
しかし月の表面や地球上の様々な隕石痕を眺めていると分かるように、実際にはクレーターにはさまざまな形状が存在し、その形成メカニズムは完全には解明されていません。
今回ご紹介する研究は、隕石を1つの塊ではなく粒子の集まりとして捉え、その結合力と衝突時の回転速度がクレーター形成にどのように影響するのかを探求したものです。
この研究で、クレーターの一般的なイメージである大きくて浅い形状は、高速で回転する「内部のゆるく結合した物体」が衝突した場合に形成される傾向があると明らかにされました。
研究の詳細は、2023年11月22日付の『Physical Review E』誌に掲載されています。
隕石はバラバラになって衝突することもある
クレーターの形成原因には隕石衝突の他にも火山活動、爆発などがあり、物体の衝突によって形成されるものは「衝突クレーター」と呼ばれます。
衝突クレーターの形成する衝撃は、非常に小さいエネルギーから水爆を上回る巨大なエネルギーまでさまざまです。
このため、クレーター形成のプロセスや、その結果としての形状も非常に多様です。
ただ、一般的には、小さなクレーターはお椀型で(単純クレーターと呼ばれる)、大きくなると複雑な構造を持つとされます。
たとえば、カナダのラブラドールにあるミスタスティン・クレーターは、複雑クレーターの有名な例です。約28kmの推定直径を持ち、中央には約16kmのミスタスティン湖と盛り上がった中央隆起部を有しています。
しかし一方で、巨大ではあっても単純な形状のクレーターも存在します。アリゾナ州のバリンジャー・クレーター(メテオ・クレーターとも呼ばれる)はその例で、きれいなお椀型の形状が特徴です。
このように、クレーターの分類は一筋縄ではいかず、研究者らの頭を悩ませる問題となっていました。
これまでの研究では、クレーター形成には、衝突物体の速度やサイズ、地面の性質なども影響することが明らかにされています。
ここで、多くの先行研究には、衝撃を与える物体について「一つの塊」と仮定している点で、実際とは異なるところがありました。
実際には隕石や小惑星は「粒子の集合体」で、粒子の結束強度により衝突時の挙動が変わります。
たとえば、粒子の結束強度が高く「一つの塊」のまま衝突するものもあれば、もっと早いタイミングで断片に分かれてしまうものまでさまざまです。
そのため、物体を「粒子の集合体」と仮定し、その結束の強さを考慮した方が、より実際の衝突に近いシミュレーションになる可能性があるはずです。
そこでブラジルのカンピーナス大学(University of Campinas)のフランクリン准教授(Erick de Moraes Franklin)らは、それまでにあまり注目されてこなかった「粒子の結合強度」と「回転速度」の2要素に着目し、さまざまなシミュレーションを行いました。
これらの要素がクレーター形成にどう影響したのか、詳しくみていきましょう。