イースター島の人口はずっと4000人程度だった⁈
研究チームは今回、イースター島が歴史的にどれだけの人口を持続して養えたかを明らかにすべく、農地面積を調査しました。
調査では人工衛星から得られた高解像度の赤外線画像とそのデータを分析する機械学習(AI)を駆使して、農地利用されていた土地をすべて洗い出しました。
(ポリネシア人は主にサツマイモを栽培して、食料供給をしていたことがわかっている)
これまでに行われた同様の研究では、イースター島の農地は最大21.1平方キロにおよび、その広さがあれば多くて1万7000人、最大推定値だと2万5000人の人口を養えのではないかと考えられていました。
ところが今回の調査の結果、イースター島の全面積である約164平方キロのうち、農地として使われていたのはわずか0.76平方キロに過ぎなかったことがわかったのです。
農地面積が0.76平方キロだとすると、平均で約2000人の食料しか供給できなかったと考えられます。
もちろんここは島なので、島民が漁業も併用していたはずですが、それを考慮しても最大で約4000人の食料を賄うのがやっとだったと推定されるのです。
研究主任のディラン・デービス(Dylan Davis)氏はこの結果について「これまでの推定値をはるかに下回っている」と指摘。
「人口崩壊の仮説とは正反対のものであり、イースター島の人口が以前に考えられていたほど大規模になることはなかったのでしょう」と続けています。
また人口崩壊の仮説を支持する根拠の一つとして、「大量のモアイ像を建設・運搬するのに相当の人口が必要だった」というものがありましたが、これも以前の研究で反証されています。
2022年に報告された香港大学の研究では、モアイを三方向から繋いだロープを交互に操作して、モアイを歩かせるように移動させれば、そこまで筋力を必要とせず、少人数でも十分に運搬できることが実証されたのです。
(※ 実際のテスト映像は記事の最後に添付しています)
デービス氏もこれを踏まえて「考古学的な証拠はイースター島の大規模な人口仮説を支持しておらず、モアイの建設や運搬についても人数が重要なのではなく、ただ少数の仲間内での協力が大切だったのでしょう」と話しています。
以上の結果から、イースター島の人口は過去に数万人規模に達したことはなく、多くても4000人程度であったことが示唆されました。
モアイ製造に島民たちが極端に入れ込んでいたことは事実でしょうが、モアイを作るためにすべてを犠牲にし、文明の崩壊まで起こしたという考えはこれらの事実からは否定されます。
イースター島の人口激減という話題については、ヨーロッパ人がイースター島発見後に伝染病を持ち込んだ際のエピソードもあるため、そちらと混同する人がいるかもしれません。
そのため補足しておくと、イースター島はヨーロッパ人たちが持ち込んだ天然痘や結核など伝染病流行が原因で極端な人口減少を起こしており、1870年代には一度、島の人口が100人ほどまで激減したことがありました。
これは事実であり、現在は約7000人(プラス年間5万人の観光客)にまで回復しています。
このエピソードは、イースター島発見後の出来事であり、今回の謎多きモアイ作りに勤しんだイースター島文明の歴史とは別の話になります。
こちらはモアイ像を歩かせる様子。
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参考文献
Study Challenges Popular Idea That Easter Islanders Committed ‘Ecocide’
https://news.climate.columbia.edu/2024/06/21/study-challenges-popular-idea-that-easter-islanders-committed-ecocide/
Satellite imagery may provide a missing puzzle piece in Easter Island saga
https://edition.cnn.com/2024/06/21/science/easter-island-what-happened-civilization-collapse-scn/index.html
元論文
Island-wide characterization of agricultural production challenges the demographic collapse hypothesis for Rapa Nui (Easter Island)
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.ado1459
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。