かつてない官能と凝縮の4シーター。すべてが新しい
「4人の大人が乗れる4ドア・フェラーリ」、これがプロサングエをシンプルに表現した言葉だと思う。今回久しぶりにそのステアリングを握ってキャラクターを探っていると、そんな言葉が浮かんできた。これまでもフェラーリには4シーターモデルは存在した。だが、ここまでたっぷりしたサイズのリアシートを持ったモデルはなかった。しかも、リアドアまで付いている。完璧な4人乗りフェラーリだ。
なぜそんなキャラクターのモデルが生まれたのか。その答えを彼らから聞いたことはないが、おおよそはマーケットニーズと考えられる。フェラーリ・ファンであれば家族で乗れるモデルがあったらほしいと思うのは当然。そしてそれに応えれば販売台数を稼げるのは明らかだ。ないものをつくれば売れるし、売れればステークホルダーも満足する。
そんなプロサングエは発売前から大人気。値段を発表しなくても注文書が殺到した。周囲にそんなフェラーリ・ファンが多かったから記憶に残っている。V8ミッドシップを持っている人も12気筒FRを持っている人も増車にと心浮かれていた。
プロサングエのおさらいをしよう。ワールドプレミアは2022年9月。プロサングエ(PUROSANGUE)という名はイタリア語の「サラブレッド/純血」を意味する。エンジンは6.5リッター・V12の自然吸気で、ヘッド回りは812コンペティツィオーネ用をベースとする。最高出力は725ps。0→100km/h加速は3.3秒、最高速は310km/h以上に達する。駆動方式はAWDだが、トランスアクスルを主体としたリア中心のトルク配分なので、その動きは期待を裏切らない。
スタイリングは4ドアながら見たまんまスポーティ。開口部の広いリアヒンジのウエルカムドアが付けられた。ウエルカムドアというネーミングからもリアシートを軽視していないのがわかる。後席はシートヒーターもあればリクライニングもできる。しかも、たたまずともフェラーリ史上最大のラゲッジスペースを持っている。たたんでしまえばなんでも積めちゃう。ホイールベースは3m以上あり、足元が窮屈なんてことにはならない。
デザインは、かなり凝っている。写真では伝わらない複雑な面構成で仕上がった。少し遠くから見るとすごい存在感でボリュームがあるように感じるが、近寄ると思いのほか小さく感じる。フェンダーは膨らんだ分絞り込まれ、抑揚が強いからだろう。ボンネットも横に立てば低いのがわかる。デザインテイストは空力を追求したV8ミッドシップよりも、艶を匂わせるローマによった雰囲気だ。
気持ちよく、しかも妥協のない走り味。生粋のフェラーリである
ドライバーズシートに乗り込む。すると少し違和感がある。「フェラーリに乗る」という動作で運転席に座ると、思いのほか目線が高いからだ。一瞬脳がバグった気がした。とはいえ、冷静にステアリング上6時の位置にあるスターターボタンを指でなぞると、フェラーリ然としたブリッピング音が鳴る。そうそうコレ! って感じ。
マネッティーノはCOMFORT、SPORTのほかにICEとWETがある。昨年北イタリアのトレント北西にあるピンツォーロという街近郊ではICEを多用した。標高2000mを超える山間での雪上テストドライブに参加したからだ。そのときのプロサングエのアクティブな雪道走行に驚いたのを覚えている。
今回の試乗はというと、終始気持ちよく走った。COMFORTでは操作系がシビアではなく、ゆったりした気分で付き合える。乗り心地も大径のパイロットスポーツを履いていたが快適。サスペンションが連動してソフトになり、路面からの入力を絶妙に消してくれる。
それでは刺激が足りないと思えばSPORTが欲求を満たしてくれる。サスペンションはハードになり、各部操作系もクイックになる。もちろんエグゾーストノートは変貌。12気筒ユニットのあの甲高い乾いた音が空気に突き刺さる。断言できるのは、プロサングエには4シーターだからとか、4ドアだからとかという妥協がないこと。アクセルを踏んだときの瞬間的なアクセレーション、サウンド、Gフォースはまさにレーシングカー。ドライバーを十分すぎるほど覚醒させる。
そう考えると、冒頭の「4人の大人が乗れる4ドア・フェラーリ」は「フェラーリなのに4ドアで4人の大人が乗れる」と書いた方が正しいかもしれない……。